第4話 仔竜と魔剣

「ヤァッ!」

私は、ナイフで箱をこじ開けようとするのだが、なかなか思う様に進まない、こんな時エドワード殿はどういうふうにやるのだろうか?

「……ん?」

よく見ると、蓋には鍵穴が付いていた。

そうか! これなら私にも出来るかもしれない! 私はそう思い、その辺に落ちていた先の細い棒きれを手に取ると、鍵穴に突っ込んでみたが、やはりうまくいかない……。

うーむ、どうすればいいんだ!? そんな事を考えながら、私は再びナイフに手を伸ばしかけたその時だった、箱の中からかチャリと音がしたのだ! 私は思わず手を引っ込める。

すると、カチャカチャという音と共に箱の鍵が開いたではないか!! そして蓋がゆっくりと持ち上がっていく……

「なっなんだこれは!!」

中に入っていたのは、美しい装飾が施された鞘に収められた一振りの大剣であった。

しかし、ただの一振りではない、なんとも言えない禍々しい雰囲気を放っているのだ。

まるで生きているかのようなこの感じ……まさか本当に魔剣なのか!? だが何故こんなものがここに? 私はふとある考えに至る。……もしかするとこれは、先程の魔物達の親玉が持っていたものなのではないのか? だとしたら、もしやあの魔物達を操っていたのはこの魔剣の力だというのか? 私はゴクリと唾を飲み込む。

そして恐る恐るその大剣へと手を伸ばした。…………大丈夫だ、何も起きないじゃないか。

私はホッと胸を撫で下ろすと、その大剣を慎重に取り出した。

ズシリとした重みを感じる。

「お、重い……」

あまりの重さに思わずよろけてしまった。

これは、見た目よりもずっと重たいぞ……。

一体どんな素材を使っているんだろう? 私の力では持ち上げる事すら出来なさそうだ。

いや待てよ……確か、エドワード殿はこれを軽々と振るっているはずだ。

それにしても、何度見ても凄まじいな……。

あのような細腕でどうやって扱っているのだろう? 不思議でならない。……っといけない! 今はそんな事を考えている場合ではなかった。

とにかく一度、先程の場所に戻ってみた方がいいのではないかと思い始めた矢先の事である。

突然、箱の中から眩しい光が放たれたかと思うと、次の瞬間、目の前に大きな影が現れたではないか!!

「グオォオオ!」

そこには、漆黒の鱗を持つ巨大なドラゴンの姿があったのだ。

「ど、ドラッゴン!?」

私は驚きの声を上げると同時に、慌ててその場から飛び退いた。

するとその直後、さっきまで私が立っていた場所に勢いよく爪を振り下ろしたドラゴンの姿が見える。……危なかった。もう少し反応が遅れていたら今頃真っ二つになっていた所だ。

しかし、どうして急に現れたりしたんだ? しかも、あれだけの巨体なのに全く気配を感じさせなかったし……。

一体どういうことだ? だが、いつまでも驚いてばかりはいられない。

ここは逃げの一択しかないだろう。

私はドラゴンに背を向けると一目散に走り出す。……とは言っても、相手は空を飛ぶことが出来る生き物なのだ。とてもではないが逃げる事は叶わないであろう。

しかし、だからと言って諦めるわけにはいかない。どうにかして時間を稼いで助けを求めないと、幸いな事にドラゴンに対して空間が狭く、思う様に動けないようだ。それならばなんとかなるかもしれない。

まずは、奴の動きを止めなければ! 私はそう判断すると、腰に差していたナイフを抜き放つと、それをドラゴンに向かって投げつけた。

それは真っ直ぐに飛んで行き、見事に命中しはしたが、傷をつけるどころか鱗の表面を滑って落ちていっただけだった。……くそっ! ダメか……。

なら次はどうする? 何か武器になるようなものは……そうだ! あの魔剣があるじゃないか! 私は手に持ったままだった大剣を引きずるように構えると、ドラゴンに向かって斬り掛かろうとしてつまずいて大剣は手から離れて飛んで行きドラゴンの左目を掠っただけであった。

しかし、やはりと言うべきか、その攻撃は全く効いている様子がない。

そればかりか、逆にこちらの攻撃が弾かれてしまい、体勢が崩れてしまう始末だ。

そして、その隙を狙っていたかのように、ドラゴンが私目掛けて大きな口を開いた。……マズイ! 私は咄嵯に身を屈める。すると頭上ギリギリを通り過ぎていく鋭い牙が、私の肝を冷やし、心臓が早鐘のように鳴り響く。

こいつこのまま噛み付く気なのか!? 私は地面に倒れ込みながらも必死の思いで横に転がり、間一髪のところで回避に成功する。

だが、安心している暇などはなかった。今度はその強靭な尻尾が私を捉えようと襲いかかってきたのだ。

「ぐあっ!!」

強烈な一撃を受けて吹き飛ばされると、地面を何度も転がった後に岩壁に打ち付けられてようやく止まる事が出来た。

全身が激しく痛むが、なんとかまだ意識はある。

しかし、もうこれ以上戦える気がしない。……いや、違う! ここで諦めてたまるか、体勢を整える為に壁に手を当てる?

「ウワッ!!壁が無い」

体勢が崩れ岩壁の方へ体が傾いてしまったので、そのまま落下してしまったのだ。

私は慌てて空中で体を捻り、両手両足を使って着地に成功したのだが、その時、足の裏がヌルッとするのを感じた。

これは……血だ! どうやら足を挫いて動けなくなってしまったらしい。

私は絶望的な状況の中、それでも何とか立ち上がって再び構えを取る。

だが、そんな私の姿を嘲笑うように、ドラゴンはゆっくりと近づいてきた。

「クッ……ここまでなのか……」

私は思わず弱音を吐きそうになるのをグッと堪える。

ここで折れたら本当に終わりだ。私は絶対に死ねないと、そう思った瞬間、ドラゴンの角が中程で切られたのだ。……え? 何が起こったんだ? ドラゴンも何が起きたのか理解出来ていないようで、戸惑っている様子だ。

私は一瞬呆気に取られていたが、すぐに我に帰ると辺りを見回す。

そして、少し離れた所に少しボロボロになった、エドワード殿ミトゥース殿の姿を見つけると、急いで駆け寄っていく。

「大丈夫ですか?」

「ああ、なんとかな……」

エドワード殿は、額から流れる血を拭いながら応える。

「すまない、私の力不足のせいで、君に怪我まで負わせてしまった」

「そんな事ありませんよ! それより一体これは……」

「実は……あのゴーレム兵達はこの魔剣の力で操られていたんだ」

「魔剣……これがそうなんですか!?」

「そうだ、只これは普通の剣が魔力を持っただけのものだが、そこのドラゴンに踏まれている大剣と違って、使い物にならないが。」エドワード殿がそう言って魔剣から手を離すと魔剣は砂へと変わるのであった。

「……それで、これからどうしますか?」

「そうだな、とりあえずドラゴンの動きを止める必要があるが……どうしたものか」

「……そうですね」

「……ん? どうかしたか?」

「いえ、なんでもないです」

私はそう答えると、チラリとドラゴンの方を見る。

ドラゴンはまだ混乱しているようだったが、突然動き出すと、いきなり火炎のブレスを吐き出してきたのだ。

二人は咄嵯に飛び退くと、なんとか避けたが、後ろにあった建物の一部が燃え始めた。

しかし、それよりも驚いた事がある。

なんとドラゴンが、先程の魔剣と同様に消えてしまったのだ。

一体どういうことなんだ? 私は訳がわからず困惑していた。「……どうなっているんだ?」

「わかりません。ただ、あのドラゴンはさっきの魔剣と同じで、何者かによって操作されているような感じがしました。

恐らく、あのドラゴンは、あの場所から動けないようになっているのだと思います。

それなら、あの場所に近づかなければ良いだけのはずですが、外へと続く扉がそこにあるのです!」謎の大剣と扉を交互に見ながら言う。

なるほど……確かに言われてみればそうだな。

でも、それだとどうやって外に出ればいいんだろう? そう思っていると、突然地面が大きく揺れ始め、建物がグラグラと音を立て始める。

すると次の瞬間には、まるで地震のように地面が激しく上下し、立っていることが出来なくなる。

そんな中、ミトゥース殿が私達に大声で叫ぶ。

どうやら、この遺跡は崩れようとしているようだ。

このままでは生き埋めになってしまう! 早く逃げないと! しかし、目の前には新たなドラゴンが姿を現していた。

しかも、そのドラゴンは私達を見てニヤッと笑うと、口から炎の玉を吐き出し、私達の足元に向かって放つ。

その攻撃により、床が崩れて足場が少なくなってしまった。

そして、その穴の底は真っ暗で何も見えない。

だが、私は見たのだドラゴンが現れる前に大剣の柄にある宝石が不気味に輝くのを。

あれが光ったということは、つまりそういう事なのだろう。

私は、ドラゴンが再び攻撃を仕掛けてくるよりも先に、ミトゥース殿の手を引いて走り出した。

背後からはドラゴンが追いかけて来る気配を感じる。

しかし、幸いにも奴は空を飛ぶことが出来ないようで、必死に追いかけて来ている。

そして、ついに出口まであと一歩という所までやって来たのだが……

ここでまたもや邪魔が入ったのだ。

ドラゴンはその巨体で器用にドアノブを掴むと、そのまま体当たりで扉を破壊しようとしてきたのだ。

そして、遂に私達はドラゴンに追い詰められてしまう。

しかし、ここでエドワード殿が刀を抜き「爆ぜろ龍翔」と呟くと、一瞬で距離を詰め、ドラゴンを一閃する。

すると、ドラゴンの体は二つに裂け、地面に倒れ込む。

だが、それでもドラゴンは最後の力を振り絞り、エドワード殿の腕に噛み付いた。

エドワード殿は痛みに顔を歪めながらも、腕を振るってドラゴンを弾き飛ばす。

だが、その直後、ドラゴンは跡形もなく消え去ったのだった。

私達がホッとしていると、突然、大剣が砕け散り1匹禍々しいドラゴンが現れたのだ。

そのドラゴンは今までのドラゴンとは比べものにならないくらい大きく、鋭い牙を剥き出しにして襲いかかってきた。

私は、慌てて剣を構えると、ドラゴンの攻撃を弾いたのだが、あまりの力の強さに、私は吹き飛ばされてしまった。

そして、私の体が宙を舞っている間にも、ドラゴンはエドワード殿の方へ飛びかかっていく。……マズい!! 私は何とか起き上がると、エドワード殿の元へ駆け寄ろうとしたが、その時、ミトゥース殿がエドワード殿の前に立ち塞がると、ドラゴンに向かって手を向ける。

すると、ドラゴンは動きを止め、ゆっくりと後ろを振り返った。

私は何が起こったのか理解出来ずにいると、今度はドラゴンの体が徐々に砂へと変わっていったのだ。

これは……もしかすると、あの魔剣の能力なのだろうか? とにかく助かったようだ、緊張が途切れて脱力とともに地面にへたり込む。

「大丈夫ですか?」

「ああ、なんとかね」

「すみません、私がもっとしっかりしてれば……」「そんな事はないですよ、ケビンさんのおかげでこうして生きているんだから」

「ありがとうございます。それにしても、さっきのドラゴンは一体……」

「わからない、だが、どうやら魔剣が最後の力でドラゴンに成ったのだと思う、小さい時に父から聞いた物語に魔剣アルガンの話が有ったが。」

「たしか、その魔剣は魔剣にして魔剣に非ず、その魔剣は知恵と意志を持ち竜卵を守る物なり……でしたっけ? それじゃあ、ドラゴンの卵があるのか?」

パキッ、その言葉が終わるの待つかのように私の後ろで何かが割れる音がし

、振り向くとそこには子犬ぐらいの大きさの何かが居た、その何かは凄い勢いでエドワード殿に体当たりをするのであった。

私は、慌ててエドワード殿を助けようとするが、間に合わずに一緒に吹っ飛んでしまった。

「いてて……一体なんなんだ?」

私は立ち上がり、エドワード殿の方を見るとそこにはエドワード殿の胸に激しく頬を擦り付けキュウキュウ鳴く仔竜が

居たのだ。

その姿は可愛らしく、つい見惚れてしまっていたのだが、ふとある事に気が付くと、すぐに仔竜を抱き上げる。

「……どうやら無事みたいだな」「えぇ、そうですね。ですが、まさかこんな事になるなんて……本当に申し訳ありません」

「いえ、気にしないで下さい。元はと言えば、俺が油断していたせいですし」

「そう言って貰えると、少し気が楽になります。それで、この子はどうしますか?」

私は、腕の中で気持ち良さそうにしている仔竜を見ながら言う。

するとエドワード殿は、「う~ん、どうしようかなぁ」と言って腕を組みながら考え始めた。

すると、急にミトゥース殿が、ハッとした顔でこちらを見る。

そして、私と目が合うと真剣な表情で話しかけてきた。

「もしよろしければ、その子を引き取って頂けないでしょうか?」…………どういうことだろう? 引き取るって言われても、私はペットを飼ったことは無いぞ? まぁ、でも、こんな可愛い生き物なら喜んでお世話させていただきたいが。

しかし、何故いきなりそんな事を言ったのだろう?

「どうしてですか? エドワード殿を親みたいに懐いているのに、離れるのは可哀想では?」

ミトゥース殿は、困ったような笑顔を浮かべて話し始める。

「実は、先程の戦いで私の力では、あのドラゴンには勝てない事がわかりました。それに、私達はこれから危険な旅を続けなければいけません。なので、誰かに守ってもらわなければいけないのです」

「ミトゥース殿大丈夫です。俺ならコイツを守れるから心配しないでください!」

「ありがとうございます。それと、もう一つお願いしたいことが有るんです」

「なんでしょう?」

「私には、この子に名前を付けてあげて欲しいのです。そして、あなた達の旅に同行させてもらえませんか?」……なるほど、そういう事なのか。

つまり、エドワード殿は今よりも強くなるために旅に出るのだから、その道中を共にする仲間として私達に付いて行きたいと。

「そういう事ですか。もちろん良いですよ。ねぇ、エドワード殿?」

「はい、よろしくお願いします」

「それじゃあ、まずは街に戻って名前を考えてから出発しましょう」

「そうだなこの扉から出ると外に出られると思うから行こうぜ」

「はい、分かりました」

そして、エドワード殿は仔竜を抱えて扉を開けて外へ出て行く。その後に続くミトゥース殿。

私は、2人が扉をくぐり抜けるのを確認すると扉を閉める。

そして、閉めると同時に眩しい扉が光に包まれ消える。

「やれやれ、実在の人間の振りなんて疲れたよ。龍神様の予言通り神子に逢えたし私の此処での役目は終わりですね、エドワード殿、ミトゥース殿、神妃マリアージュの加護が2人に在らんことを!」

ケビンはそう呟くと、仮初の姿である人の姿を解き精霊の姿に戻ると闇の中消えようとした時、視界の端に仔竜がいるのに気がつくのであった。

「あなたは、此処で何をなさってるのですか?」

仔竜に尋ねると、

「ギャウ!(通路に弾かれた、ヘボ!)」

仔竜は拗ねたように答える。

「・・・・、ヘボ・・・・。座標が狂っていても知りませんよ。」

精霊は仔竜を空間に出来た黒い穴に押し込んだ後空間を閉じ消えるのだった。

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