第7話

「いいね、ここも。人の声がほとんど聞こえてこなくてさ。静かで落ち着くよ」

「お気に召したのは良かったけど、ここは特に穴場じゃないよ。わりと見回りに教師が来るし」

 後日の昼休み。屋上近くの踊り場に俺と雪島はいた。今日は目ぼしい場所が全て先に使われているか、人がやってくる可能性があった。仕方なく、自分の中ではランクCの場所を使わざるを得なかった。

「あと、気になっていたんだけど、昼休みに毎回のように姿をくらまして大丈夫なのか? 周りから何か言われたりとか……」

「ん? 大丈夫じゃないよ。もうとっくに色々と詮索されてる。恋人ができたとかさ、勝手なこと言われたり」

「それでも続けるのか」

「まあ、仕方ないね。私だって、一人の人間だし。ずっと、皆に笑顔を向け続けるのは疲れるし、これくらいは許してほしいよ」

 そう言って、雪島は鞄からお菓子の箱を取り出した。上品な手つきで食べる姿に目を奪われたが、階下からこちらに上がってくる足音が聞こえてハッとした。

「……静かに」

 またしても、ポリポリと食べようとした雪島を制止し、息をひそめる。足音は段々と遠ざかっていった。ホッと一息つく。


「こういうのも中々楽しいねー」

 ひとり能天気な雪島を呆れた目で見やる。それにしても、こんな姿を本当に誰かに見られたら大分騒ぎになりそうだ。

 雪島に対するアイドル像は清廉潔白といった印象があった。学校にお菓子を持ち込み、嬉しそうに頬張る姿とは程遠い。

 イメージの乖離というのは受け入れられる人の方が少ない。大多数がアンチ側に変わる可能性があった。そうなった時、雪島は耐えられるだろうか。

 当人は会食を終えて、いつもの読書を始めた。毎回、同じ背表紙の本だが飽きないのだろうかと思う。それとも、遅読なのかもしれない。


「そこで何してるの?」

 唐突に声がして、ギョッとする。階下から、こちらを見上げる日下の姿があった。

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