第6話
これ以上長く話していると流石に日下に怪しまれると言って、雪島は教室に戻っていった。
一人、空き教室に残された俺は今後のことを考えていた。
正直、これは望ましい展開ではない。雪島ではなく、違う人間だったら何も問題はなかった。このままだと、俺は消されるかもしれない。
どこぞの無謀な奴が抜け駆けして告白したら、後日行方不明になったなんて噂もあった。普通ならば、ただの冗談だと一笑に付す。だがそれが真実に思えてしまうほどに彼女の周りには過激なことを躊躇なくおこなう信者とやらがいるのだ。まあ、当然のことながら本人は認可していないだろうが。
現在の雪島の人気は流石に一過性のものだと思うが、いつまで続くのだろうか。今もSNSでは#学園1のアイドルが拡散されている。このハッシュタグを拡散している奴は、彼女を本物のアイドルにでもしたいのだろうか。
だが素人目ではあるが、雪島はアイドルの素質があるようにも思えた。
いわゆる、二面性というものが彼女にはあり、人気者でありながら孤独を好むという点もそうだが、楽しそうに話しているように見えて、実際は目が笑っていなかったりするところとか。逆も然りだ。どこか掴みどころのない人間で、謎めいた魅力があった。
「……」
そうやって、雪島のことをより深く知りたくなった人間が信者になるのだろう。これ以上考えるのはあまり良くないように思えて、さっさと帰ることにした。
だが、教室に鞄を忘れていたことを思いだした。流石にもう全員帰宅しているだろうと思っていたが、教室に近づくと、歓声が廊下にまで届いた。少しだけ開いた扉からソッと覗き込むと、まだ雪島他一行が残っているのが見えた。
まあ、自分とは関係ないとばかりに教室に入る。教室の扉を開ける音で彼らはこちらに気づき、途端に静かになった。
居心地の悪さを感じながら、さっさと目当ての鞄を手に取ろうとする。が、またしても日下が鞄がある側にもたれかかっていて、手に取れない。一言言えば済む話なのだろうが、この空気感で何か発言するのは憚られた。
「ごめん、退いてくれる?」
そう言って、雪島は日下に謝った後、俺の鞄を手に取った。それを皆に注目されている中でも構わず、こちらに手渡してくる。
「はい」
「あ、うん」
それだけ言うのが精一杯だった。一対一なら話せるのだが、周りに誰かがいる中だと雪島と上手く話せなかった。
鞄を受け取り、すぐに教室を出ようとする。正直、自分が情けなかった。逃げるように帰ろうと、足を一歩進んだ後、立ち止まる。
雪島の方を振り返り、言った。
「ありがとう」
「うん。どういたしまして」
初めて、本当の雪島の笑顔を見た気がした。その表情はこちら側からしか見えておらず、他の誰にも見えていない。それだけでどこか得意な気分に俺はなった。
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