第5話
「匿うって……何から?」
「あー、ごめん。匿うっていうのは語弊があるかも。とにかく、私は一人になれる時間が欲しいの」
むしろ、どうやっても一人になれる自分からすれば、雪島の悩みは理解できなかった。
「人気者が故にだな。そもそも、どうして一人になりたいんだ?」
「誰にも言わないって、約束できる?」
「話す相手がいない」
笑わそうと思って言ったが、雪島は真面目な顔をしたままだった。
「……これ見て」
そう言って、雪島は自身のスマホの画面を見せてきた。そこに映っていたのは、何とも垢抜けない感じの少女だった。
「これ、この学園に入学する前の私」
「えっ?」
思わず、目の前のアイドル級の美少女と画像の少女を見比べる。どう見ても別人にしか見えない。
「私は元々、一人が好きな部類の人種なの。カラオケ、映画、遊園地だって一人で行けるし。それが何の間違いか、#学園1のアイドルなんて言われるようになって、周囲に人が絶えなくなった。……正直、#学園1のアイドルなんて言われると、私自身めちゃくちゃ恥ずかしいから」
自虐風の自慢に聞こえなくもないとは思った。が、雪島の表情からして深刻な悩みなのはすぐに理解できた。
「なるほど。つまり、今の環境は望んだものではなかったわけか」
「そうね。常に誰かに見られているから、偽善者にならざるをえないし。気が休まる時がない」
雪島はそう言って、小さくため息をついた。人気者であるが故の悩みだろう。一生理解できそうにないなとぼんやりと思った。
「確かに盗撮までされるのは結構、深刻な問題だな」
「……盗撮?」
整った眉を顰めた雪島を見て、俺はしまった、と後悔した。誤魔化せる気もせず、恐る恐る説明する。SNSに雪島の日常写真が流出していることを。
「なるほどね……。最近、前以上に他人から話しかけられる頻度が多いと思った。こうやって、拡散されているわけね」
「盗撮犯を捕まえるか」
俺の提案に雪島は考えるように俯いた後、頭を振った。
「無意味じゃないかな。どうせ、一人捕まえても、また新たな盗撮犯が現れるよ」
「でも、見せしめにはなるだろ。他人の写真を勝手に撮ればどうなるかってことを分からせてやればいい」
「……けど、この授業中の写真とか、完全にクラスメイトが犯人だよね。あまり騒ぎを大きくしたくはないな」
「まあ、密かに調べて解決すればいい。そうすれば、今よりは学園生活が居心地良いものになるだろ」
「協力してくれるの?」
「……まあ、微力だけど」
ここまで話しておいて、結局協力できないとは流石に言えなかった。雪島はホッとしたように息をついた。
「ありがとう。……でも、それじゃあ一方的になるから、私も何かしよっか?」
「何かって……」
「んー、君がクラスで悪目立ちしそうな時に助けるとか?」
「俺はそんなヘマはしない」
「そう? でも、何かあれば君を助けるって約束するよ」
どこか含みのある言い方をした雪島は悪戯っぽく笑った。
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