石像の功徳

さあさ、そうなりゃ、話は簡単。

何人なにびと憚る所も無くて、

暇さえあれば、村人共は、教会一つに通い詰め。


日々の疲れと苦労の中で、「癒し」と「希望」、なんて劇薬、

味わっちまっちゃあ、やめられない。


老いも若きも、男も女も、可憐で堂々、奇跡の声を、明日への糧にと拝領しに来る。

教会前に、列が出来るのさ。

あんなに長くて真っ直ぐな縦列じゅうれつ、兵隊だって、やりゃしねえ。

お布施なんてもう、ガッポのガッポ、司祭は笑いが止まりゃしねえんだ。

ああ、でも、そう言や、あのお嬢さん。白髪白肌籠り切り。

あの子は一歩も出て来なかったし、教会なんて、近付かなかった。


まあまあ、俺らにゃ、どうでもいいか。

美声、鈴音すずおと、玉のあれば、今日も今日とて頑張れる。

楽しく、華やか、儚い話。悩み、ごと、忘れるこった。

村人共も、そうやった。


天使様は、彼らを前に、

褒めて、

煽てて、

宥めて、

慰め、

まるで隣に居るようで、

けれども「お告げ」にゃ変わらない。

なんとも不思議な語り口。

教会の説法、こうはいかねえ。

流行り広がるのも当然さ。


それで、そうして村人共は、みんな、腑抜けに成り下がる?


いいや?そいつは見当違い。

そんな堕落は、起こらなかった。

寧ろ、前より活気があった。

せんと比べて、盛況なくらい。


一人の男は農具から、針へと道具を持ち替えて、

一人の女は家から出て来て、鍛冶屋に弟子入りしに行った。

粉ひきの子は、パン屋となって、遠い街へと商売に出る。

あの表六玉、怠けの大家たいかも、教会で住み込み見習いに。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る