村長と石像

話は段々大きくなって、村の衆を束ねる老爺ろうや、村長の耳にも当然届く。


村長よくよく弁えた人で、天使様からのお言いつけを聞き、

「これはいかん」と、教会に走る。


村長、像へとひれ伏して曰く、

「天使様、暖かな加護を、持つお方。

 貴方様の慈悲深き事、我らの日々を優しく照らす。

 けれど農夫の子は農夫。人の感謝は神のもの。

 我ら、規律を破る事あたわず。人の子は決まりに沿いてく」


成程、こいつは、尤もな話。

天使様の言う事にゃ、耳触りだけは良いものの、

神が人の子に与えし美徳、それから外れるようにも見える。


天使様は、答えて曰く、

「迷える子らよ、よく聞きなさい。

 決まりし事を、決まりし通りに、

 それもまた難事なんじ、有難き事。

 有難き事には感謝有り。

 感謝有る所、光有り。

 光有る所、道が有り。

 道の先へと、人は行く。

 正しき道を、やすく引けるなら、越した事など無いでしょう」


村長それに、抗い述べて、

「容易き事とは、堕する道。楽なすべとは、悪の法。

 額に汗せず得る物になど、真の正義が宿りましょうか?」


天使様は、穏やかに語り、

「今日の働き明日の為、明日の苦役はそのまた次へ、

 我が身、我が子と我が孫を、安んじる為、汗水垂らす。

 艱難辛苦を超えるのは、艱難辛苦の為にはあらず、

 いつか今日より憂いの見えぬ、平らかな明日を、迎えんが為に。

 『忍ぶ』と『折れる』は、似て非なるもの、

 『勤勉』の意味は諦めぬ事」


これを聞いたら村長も、「光を見た」とか思ってしまい、

村のみんなが見守る前で、天使様へとかしずいた。

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