「悩める子らよ」

「悩める子らよ、よく聞きなさい

 勤勉は正しく、怠惰は罪で、

 けれど、何に勤しむのかを、我らは深く問いません。

 農耕が合わぬなら、針仕事をなさい。

 パン屋にめば、大工をしなさい。

 

 酒場に立つのもままならぬなら、私と教会を守りなさい」


あんちゃんも司祭も、これには仰天。

びっくりどっきり、ひっくり返り、

外に飛び出し、触れて周った。


得意もお得意、大得意、クソデカ声で、わあわあ喚いた。


そしたら村の皆々の衆、「またあのバカか、クソボケか」って、

各々自分の持ち場に向くが、中には我慢ならねえってんで、

殴り掛かろうと追い掛け回し、騒ぎに加わるアホも居た。


拳振り回す大立ち回り、そいならそいで、付いて来いやと、

あんちゃんも司祭も二人とも、とんぼ返りを決め込んだ。


教会に着いた10~20人、ワラワラ集う、血気盛ん共。

そいつらの前の天使様、黙って静かに見下ろしてたが、


「悩める子らよ」と、こう来たもんだ。


「悩める子らよ、よく聞きなさい

 農夫は農夫、粉ひきは粉ひき、

 産む子は誰でも、自分と同じ。

 けれど時にはちょっとした、変わり種あるのも良いでしょう」


こいつを聞いた男衆、こりゃ大変だと大わらわ。

村に繰り出し、人呼び回り、酒場も家でも話で持ち切り。


亭主の空言そらごと、聞き慣れた奥方、「また酔っぱらって」とおかんむり

本当だとも、いいや法螺ホラだね、

押し問答へと、転じちまって、

「ならその目で見ろ」と、こう相成あいなった。


粗忽者共、叱りつけるべく、

「ヤアヤア、しゃべくる像とはなにサ」、青筋立てて、共々、訪問。

殺気立つ夫婦や親子に向けて、天使様が、言う事にゃ、


「迷える子らよ、よく聞きなさい。

 互いを敬い、ねぎらいなさい。

 男は力を、女は慈愛を、

 男は外を、女は内を、

 どちらも何かを守りし者よ、

 いずれも家族を支えし者よ」


こうなっちまうと、もう疑い無し。

どいつもこいつも目を見開いて、

散々言葉をありがたがった。

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