第15話 二次会

バーベキューが終わり、

大量に出たゴミを捨てに

工場の方に向かっていると、

捨て場を案内してくれるという千織さんに

大雅がようやく気づいた。


「え?何でここにおっと?てか兄貴、気づいとったと?」


「あぁ。さっき会って」


その前にバスで再会していたことは、

なんとなく伏せた。


彼女は明らかに嫌がっているが、

大雅は空気も読まず話しかけまくる。


「また会えたばい!え?てことは夕日シューズ?」


「そうやけど」


「たまがったー!(驚いたよ)こげん近くにおっとは思わんかったばい!ところでお姉さんいくつ?俺は22!」


「あぁっ、もう!さっから(さっきから)近い!もちっと離れて?」


「あいた〜!また腹かかせてしもた(また怒らせちゃった)!」


すると千織さんの同僚という

紗智子さちこさんが大雅にどついた。


「あんたなんね?黙って聞いとりゃ、なんやかんやと。しぇからしか!うったち(私達)は門田さんに手伝うてもろたばってん付き添いばしちょっとよ!」


「うっわ!こわかー!すんまっしぇ〜ん!」


「大雅、やめろって」


「そうだぞ?それにこの人、生島さんの妹さんだぞ」


岡部さんと一緒にそう言い聞かせると、

大雅は突然身をすくめ、

一気に消沈した。


「お前(笑)わかりやすかー!」


岡部さんがそう言った意味は、

よくわからなかったが、

ひとまず大雅はおとなしくなり、

ゴミを捨て終え2人に礼を言った。


「色々とご迷惑をおかけしました」


千織さんは「いえ」とだけ言い、

すぐに去ろうとしたが、

紗智子さんは満面の笑みで


「あの〜。皆さんは二次会、行くと?」


岡部さんと大雅は、

明日は1直だからこのまま帰ると言う。

だから俺も帰ると伝えた。

だが紗智子さんは引かない。


「なんね〜。ちっとだけでよかばってん、出ましょうよ〜」


後ろにいる千織さんは黙っている。

そこへ生島さんがやって来た。

恐らく新人の俺達が、

ちゃんとゴミを捨てられたか確認に来たのだろう。


「ゴミの捨て場わからんじゃろ思うて追っかけたばってん大丈夫やった?」


「はい。お2人に教わって今おいて来ました」


「あ〜よかったばい。ばってんゴミ捨てはじゃんけんで負けたもんがやりゃあよかとばい」


「いや、でもそういうわけには……」


「気持ちはありがたかばってん、なんもかんも新人が雑用ばやらされっとはおかしい言うて、ようやっと変えたとこやけん」


「そうだったんですね。なんかすいません。余計な事を……」


「よかよか!ばってん助かったと〜!じゃんけん敗者が二次会の幹事やったけんね!皆さんお疲れんとこありがとうございました!」


いつのまにか大雅は、

逃げるように消えていた。

岡部さんは明日早いから失礼しますと

きちんと挨拶をし、帰って行った。


俺は明日は夕方からの勤務の2直で、

断る理由がなく、

生島さんに少しだけでいいからと誘われ、

二次会にも顔を出すことになった。


久留米はでかい街だ。


4人でタクシーに乗り、

西鉄久留米駅のそばで降りた。


こっちは昔ながらの飲み屋街があり、

昭和ちっくな居酒屋に入る。


バーベキューの時より人数は減ったが、

それでも貸切にしている。


残ったのは本物の呑んべえ達だ。


昼間はビールやサワーなども飲んでいたが、

今はほとんどの人が焼酎に切り替えている。


さすが九州。


それぞれにお気に入りの酒があるらしく、

テーブルには名だたる銘酒が

一升瓶で並んでいる。


そして店の名物だという

ひとくち餃子やまたしても焼き鳥が並んでいる。


さすがに胃がもたれている。


とりあえずウーロンハイを作るフリをし、

ただの烏龍茶を飲んだ。


皆さん腰を据えて

仕事の話や家庭の話をしているが、


俺はあんまり自分の話はしたくないし

聞かれたくもなく、

なるべく目立たぬようにして

生島さんや馬場工場長の話を

ひたすら聞いていた。


ここでは自然と会社ごとに

人が分かれている。


千織さん達は当然、

夕日シューズ側にいる。


今日は色々な人と接して

なんだか疲れたが、

千織さんとはあまり気負いせずに話せた。


年齢は聞かなかったが、

同じくらいか、いや年下か。

お兄さんの生島さんが俺より2つ下だから、

20代のはずだ。


なんとなくそちらに目を向けると

目が合ってしまい、

気まずいからすぐに逸らしてしまった。


どことなくに似ていると思った。

前の職場で筆談していたあの子だ。


いや、そんな事は失礼な話だ。

というか何考えてんだ俺は……


頭を冷やそうと手洗いに行き、

思いきり顔を洗った。


戻ろうとすると、

千織さんが出てきて何かを渡してくる。


「あの……これ門田さんの?」


それはズボンの後ろポケットに

無理やり突っ込んでいた

原さんからもらった八女茶だった。


どうやら席を立った時に

落としていたらしい。


「あっ……ありがとうございます」


そう返事をすると

彼女はクスクス笑った。


「……?」


「こげんなるまでポッケに入れとったと?」


ぐしゃぐしゃになった包装を見て、

笑っているらしい。


「あ〜……いただいたんですけど、置き場がなくてつい」


二次会をしている部屋の外、

狭く薄暗い廊下でそんなやり取りをした。


千織さんはバスの時間があるからと

このまま帰るらしい。


ちょっとがっかりしている自分に気づく。

すると彼女は


「門田さん、帰りはどげんすっと?」


そうだ。俺も同じバスだ。

そろそろ本数が少なくなる時間だ。


それを言い訳に生島さんに帰る事を告げ、

一緒に店を出た。


帰り際、余った菓子と飲み物を

ビニール袋に入れて持たせてくれた。


そこには鹿毛かげさんが渡してきたものと同じ

お茶のペットボトルが入っていた。


せっかくさっき飲み切ったのにと

なんだか悔しくなったが、

俺はその袋に八女茶を突っ込んだ。


紗智子さんが外に出てきて見送ってくれたが、

千織さんは気にすることなく早足で進んでいく。


そこから最寄りのバス停までは

けっこう距離があった。


俺はまだ土地勘がなく

乗り場がどこにあるのかわからない。


時間が迫っているからか、

それとも小雨こさめが降ってきたからか、

千織さんは小走りになった。


俺もおのずと小走りになり、

彼女と一緒に夜の繁華街を走った。




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