第14話 初めて話した日

どうやらさっちゃんは

「男手が足りないから手伝ってほしい」

と嘘をつき連れてきたらしい。


だけどここには、

やっさんもにっし〜もいるし、

一応、楢原さんもいる。


しかも全く面識がない人達に囲まれて

明らかに困っている。


「こん人、誰?千織の知り合い?」


にっし〜にそう聞かれ返答に困っていると、

その人はさっちゃんに


「えっと、手伝うって何をすれば」


「あ〜……そっじゃ〜焼くんを手伝うてくれます?」


「わかりました」


そしてこっちに来た。

私はいたたまれず


「なんや、すんまっせん!」


「いや、全然」


すると隣にいた小野寺さんが

トングを彼に渡した。


「1人増えたし、うちゃあ焼いてばっかで、いっちょん食べとらんけん。かわってもろうてよか?」


「いいっすよ。俺がやります」


という流れで、

あっという間に2人になってしまった。


さっちゃんをチラと見ると、

ドヤ顔でほくそ笑んでいる。


私は口パクで「やめてよ」と怒ったが、

それに気づいていない隣のこの人は、

肉を返しながら話しかけてきた。


「あの……先日はすいませんでした」


「え、何のこと?」


「忘れてんならいいです」


「あ〜……バスでからまれた時?」


「そう。大雅……あっ、一緒にいたアイツが、ちょっかい出して……」


「気にしてません」と返そうとすると

にっし〜がすかさず


「バスでからまれた?ちょっかい出して!?なんやそれ!」


にっし〜は何か勘違いしたらしく、

関係ないこの人に詰め寄ろうとしている。


「違うて!こん人は、なんもしとらんけん!」


「あの、俺の連れがちょっと、やらかしたっつーか……」


「ふ〜ん?」


一瞬、微妙な空気が流れたけど、

ちょうどそのタイミングで食材が焼け、

皆んなに取り分け次を焼きながら

徐々に会話が増えていった。


「そういえば、ここの人だったんすね?」


「あぁ、うちは夕日シューズ。あの…」


「そっちは?」と聞きたいけど

名前がわからない。すると


「俺はブリロックンです。って言ってもまだ入ったばっかですけど」


「へぇ〜」


名前が聞きたい、と思ったけど、

聞いたら変に思われるかな。

気があるって思われたらどうしよう。

ウザいよね絶対。やめとこ。


するとさっちゃんが、

何の躊躇ちゅうちょもなく


「お兄さん、名前は?」


「門田です。門田晃といいます」


門田もんたさんっていうんだ……

忘れんように心に刻む。


そこへ大三兄たいぞうにいちゃんが来て、

門田さんに声をかけた。


「あっ!おったおった!どげ行ったか思うち探したばい!」


「すいません。ここで手伝いを」


兄ちゃんはどうやらもう

門田さんと親しいらしい。

そして隣にいる私に気づき


「なんや、千織もおったとか!」


「え、知り合いっすか?」


「知り合いもなんも妹たい!」


門田さんは、

私達が兄妹だと知り驚いている。


「そうだったんですか。全然気づきませんでした」


「門田千織です。兄がお世話になっています」


緊張して

なぜか標準語で話そうとしてしまう。

ばってん標準語って、こんでよかったんやっけ。

門田さんは気にする様子もなく


「いや、逆ですよ!俺が生島さんに世話になってるんです。一から教えていただいて、迷惑かけっぱなしで」


「そげんこつなか!門田さんは覚えが早いけん。俺、助かっとーよ!」


立ち話をしているうちに

焼き場はさっちゃんとにっし〜が代わってくれていた。

2人はそこでこそこそ話し込んでいる。


「え?どゆこと?お前、あん人が千織の知り合いちわかっとって連れてきたと?」


「ど〜やろ〜?」


「なんち!はっきり言えや!俺だけのけもんにすっとか!」


「いいけん。さっさと焼かんかい!」


こっちから聞かなくても

この短時間で門田さんの事を色々知れた。


東京から越してきたばかりということ。

独身寮に入っていること。

年齢は私より4つ上ということを、

お喋りの兄が教えてくれた。


いつも調子のいい兄に対して、

羨ましさや妬ましさを感じていたけれど、

今回ばかりはちょっと助かった。


バーベキューが終わり片付けが始まる。


持ってきた軍手をリュックから取り出し、

まだ熱が残るコンロの掃除を始めた。

すると門田さんが


「俺、軍手持ってきてねーや」


と呟き、申し訳なさそうにこっちを見ている。


「よかです。ここはうちがやっときます」


門田さんは少しだけ宙を仰ぎ、

私に片手を差し出してきた。


「え?」


「軍手、貸してください」


「な、何で?」


「それ俺がやりますんで、千織さんは他のことやってください」


「でも……」


確かに私がやるより、

この人にお願いした方が早く片付くかも。

私は軍手をはずし、それを渡した。


「お借りします」


なんだろう、この感情。

体がふわふわして

自分だけ異次元にいるような感じ。


そんな感覚になって、

何をやっていても、

門田さんに意識がいってしまう。


見慣れた筑後川の風景さえも

今日は特別に見えた。


暗くなり始めた河川敷。

山並みはすっかり陰ったけれど、

川面かわもは青く光っていた。


荷物を運びながら

さっちゃんが言う。


「千織〜、今日楽しいなぁ?」


「うん。楽しい」


「たまにはよかばい。こげん日があっても」


「うん」


「うちゃあ二次会いくけど千織は?」


「行こかな。夕飯作ってきたし」


「おっ!珍しいか〜」


「さっちゃん、ありがとう」


「なんね(笑)突然」


「ううん。なんでもなか」


あらかた片付けが終わると

決まって最後に集合し、

ゴミ捨て係をジャンケンで決める。


うちの井上工場長が音頭をとり、

じゃんけん大会の開始だ。


「そんじゃあ、準備はよかと〜?」


「おー!」


「じゃーいけん、どっこいし!」


大勢の中でも

門田さんがどこにいるのか

すぐに見つけられた。


でも、門田さんの様子がなんか変。


キョロキョロしながら

1人だけ動揺している。

思わずそばに行ってみると


「なんすかこれ。じゃんけんじゃないの?」


「え……じゃんけんやけど」


「いや、じゃないでしょコレ」


「じゃんけんばい。うちもは言わんけど」


「何?どっこいしって」


「じゃいけんぽいのって意味」


「はぁ?聞いたことないよ」


「うちの工場長、小倉出身やけん、あっちはそげん言うみたいです」


「へぇ〜。面白れ〜。てか、も違うでしょ(笑)」


「え?ほんなら何ちゅーの?」


「じゃんけんぽん!だよ」


「ほぼ同じったい(笑)」


「全然違うでしょ(笑)」


きっと、東京と九州じゃ

言葉以外にも色々違うんだろうな。


「じゃいけん、どっこいし!あいこで、し!

 し!し!し!」


北九州式のじゃんけんは、

私達はもう慣れたけど、

門田さんはずっと

お腹を抱えて笑っていた。


結局、門田さん含む新人さん達が、

ゴミ捨てを買ってでた。


私は前にジャンケンで負けたことがあって、

ブリロックンのゴミ捨て場を知っている。


「あの、うちも行きます」


「いいですよ。重いし」


「ばってん、捨てっとこ知っとー?」


「すいません。お願いします……」


私も行くとわかると

さっちゃんもついてきて、

終始ニヤニヤしている。


そしてようやくあの金髪が、

私に気づいた。


「あっ!思い出した!どっかで見たち思たら、あん時の!!」







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