第27話[和の決闘広場]

 一見和風の長屋が並ぶ街、『トイノニア』に入る。俺自信は何度も訪れてはいるが、街の中でだらだらするほどは見回っていない。というのも、この街はどうにも肌に合わないからだ。

 肌に合わないのは街が嫌いなわけではなく、いるプレイヤーの層がなんとなくガラが悪いからだ。所謂、ランキング上位層が沢山おり、大手ギルドの看板を背負って皆歩いている。その中でギルドの看板なしにソロが歩くのはどうにも威圧されかねない。

 大抵の場合ギルドのメンバーは街のどこかを拠点として、狩りなどから戻った時にはその場所に集まっている。酒場であったり、カフェであったり、椅子のある広場や、公園で集会をしていることもある。もはや現実とほとんど変わらないのだ。

 その一つが、トイノニアの『決闘広場』と呼ばれる場所だった。


[パーティー情報]

・ササガワ/ナイト/58レベル

・スウ/ウィザード/58レベル

・そままち/アーチャー/59レベル


 決闘広場はトイノニアの街の入り口にある。特に見たくなくとも通ることになるが、パッと見た感じは[御伽集落]のギルドの看板を抱えたものが多いな。

 今し方、両手持ちの鎌のような武器のナイトと、緑色に強く光を放つ弓を持ったエルフが決闘している。

「ねえササガワ、あの人達、普段モンスターに対して使うような動きじゃない挙動してるわよね? あれってスキル……じゃないわよね?」

「そうだな」

 MYO(みょー)の攻撃や移動に関しての動きはあくまでも『補助』、または『制限』だ。敏捷が高ければ人間の感覚よりも早く攻撃ができる補助が入るし、低ければ、頭では動かせるはずのものが全く動かなかったりする。

 とはいえ、その補助の動きから外れているものは全て元々その人が持っている反射神経であったりの潜在能力が反映されているのだ。

「あいつらは多分、決闘の中で自分がPVPで勝つための動きを考えて作り出しているんだ。対モンスターでは使い物にならないステップでも、対人では十分に回避や揺動に繋がるからな。

 決闘広場はさほど広くない。決闘モードの仕様だけで言えば、距離からして弓使いは圧倒的に不利のはずだ。しかし今目の前の弓使いは、間違いなくナイトを圧していた。

 それは本人の感覚による距離感、一撃一撃の回避、どちらに移動するか、どちらからどのタイミングで矢を放つか。スキルをどこで使うかなどの潜在能力による戦いのうまさだ。


 決闘が終わり、アーチャーのエルフが勝利する。周りにいた野次馬が賭けをしていたのか、一斉に湧き上がっていた。


「ねえササガワ、あんたも決闘やらないの? あんたのそのヘンテコ反射装備ならかなりの相手をビビらせられるわよ」

「敵に手の内を明かしてどうすんだ」

「敵?」


「俺は攻城戦で城を取ることを決めたんだ、俺のこの反射装備のデビュー日は、攻城戦の日だよ」


 そう、MYO(みょー)が開始されて数ヶ月、俺はずっとこの装備で何ができるかを考えていた。

 初期装備、[鉄のシリーズ]の反射オプション。初期装備だから防御力が無く、敵からのダメージは絶大だ。しかしそれを体力ステータスに振り続けることで、HPの最大値でカバーし、相手は予想もできない自分のダメージを受けるという仕様だ。

 少なくとも同じ仕様の装備をつけたプレイヤーを俺はまだ見ていない。

 とて、一度それがバレれば同じことをするやつが出てきてもおかしくない。


 だから一発勝負だ。この装備は攻城戦で


「あれ? ササガワさんおひさ〜だね?」

 目の前に現れたのはエルフのような容姿をしたアーチャー、むちょさんだ。相変わらず、いかにもエルフの基本です! といった顔立ち、耳の尖り。


「もしかして先ほど決闘してたのはむちょさんですか?」

「そだよ、ササガワさんも決闘に興味あるんだねえ」

「いや、俺は通りがかっただけで」


 スウとそままちが「この女たらしがー」とか「そんな気がしていた」とかボソボソいっているが、聞こえる。


「彼女たちはあなたのパーティー?」

「ええまあ、腐れ縁みたいなやつです」

「ふーん、みんなソロね。どう? よかったらギルドに?」


・むちょ[お寿司]


「むちょさん、前は[放送完全版]ってギルドじゃなかったです? なんですか[お寿司]って」

「お寿司好きなんですよね〜! じゃなくて、[お寿司]は連合ギルドシステムでギルドを束ねてて、下に[放送完全版]含む3つのギルドと合併連携されてるんですよ! 前はそっちにいたのを移籍してきたんです」


「デカい連合なんですね、何目標のギルドなんです?」

 俺は前からギルドに入ることは興味があった、ただし、ルールやコンセプトが合っている場所を探したいと思ったまま時が過ぎていたのだ。


「ん。[御伽集落]をぶっつぶすギルドだよ」

 むちょは、彼女は物凄い笑顔で恐ろしいことを口にした。


「ぶっ潰すというのは表現がアレだけれど、とりあえずは次実装される攻城戦で[御伽集落]を出し抜くのが目的だね。あのギルドはデカいだけあって、いろんな人から目の敵にされてるんだ」

 確かに、俺も理由は違うが目の敵にしている。

「じゃあむちょさんも御伽集落を何かしらの理由で倒したい、と」


 それを聞いたむちょは、一瞬闇に落ちたような重い表情を見せて口を開く。

「あのギルドには、前のゲームでね……」


 どこかで聞いた理由だった。


 この発言を聞いてから俺はむちょさんの攻城戦ギルドに物凄く興味を示した。

 スウやそままちも可能なら勧誘し、御伽集落から城を取る。

 これは俺にとっても自分のMMOPRG人生という歴史に一つ区切りをつけるチャンスだった。


「むちょさん、もしよければその……ギルドに」


[パーティー加入の申請がむちょから届いています]


 ん? なんだ? パーティー参加申請?

 迷わず○を押す。


[パーティー情報]

・ササガワ/ナイト/58レベル

・スウ/ウィザード/58レベル

・そままち/アーチャー/59レベル

・むちょ/アーチャー/70レベル


「じゃ、3日でカンストまでいこっか!」

 突然パーティーを組んできたむちょは笑顔で言い放った。


 そうだ、この人は本当のだったのを忘れていた。

 だから信じられる。

 彼女の采配なら、勝つことができるかもしれない。

 エルラドを、出し抜けるかもしれない。


 俺は即座にスウとそままちを交渉しレベル70カンストへ、狩りの道を走り出した。

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