第26話[レベル上限解放と日々狩り]
◆
オープンベータ期間であるにも関わらず、近頃は次々にアップデートが行われていく。先日のマップ探索イベントに続き、今回はレベル上限解放だ。現在55レベルの最大レベルが、70までに解放される。
正式サービスと呼ばれるものがいつくるのか定かではないが、噂では正式サービスと共に、見えているフィールドの全てが解放されるそうだ。
現在はルーレンサ地区、フラリム地区、トイノニア地区の3フィールドだが、見えているフィールドを散歩ついでに数えたところ、15地域程度には数えられた。
火山、雪原や空の上にもフィールドが見てとれた。
遠くを見て胸が高鳴る俺はもうこの世界に恋をしていると言えるな。ドヤ顔だ。
話を戻すと、今し方レベル解放があと数分後に行われるという事で早速フィールド狩りをするためにパーティーを集めているところだ。現状は、毎度お馴染み、敏捷ウィズのスウと、アーチャー(大砲)のそままち。あと2人ほどほしいが、友人いなさすぎ問題児の集まりゆえに諦めるしかないか。
「誰が友人いなさすぎよ!」
「おっと聞こえてたか」
ドン! と蹴られた鈍い音が俺の鎧から響く。
横を見るとそままちが大砲をこちらへ構えている。それはドン! では済まないやつだ! やめてくれ!
「久しぶりに狩場に篭れそうでワクワクしてるんだ。MMOはレベル上げしてる時が一番好きなんでね」
「ドMね。ドM。」
「ササガワ、どえむ。覚えた」
確かに相手の攻撃をわざと受けて、反射して倒すのはマゾっぽくはあるが……認めんぞ。あくまでキャラの仕様だ。
「ところで……アップデートされたらどこを狩場にしようか。あらかじめ狩場を押さえておかないといけないかな」
現在、MYO(みょー)のプレイヤーの大半は55レベル。つまりカンストしている状態だ。ここから55レベルの適正狩場に行くとなると、ゲーム開始時の初期狩場と同じようにひたすらモンスターがポップするのを待ち続ける事になるだろう。そんな効率の悪い事、レベル1ならまだしも55でやろうもんなら、日が暮れても経験値は1%も増えやしない。
「そうね、敢えて少しレベルの高い狩場に行くのはどうかしら? 数は狩れなくても一体の経験値が高ければ上がりやすいんじゃない?」
スウにしてはまともな意見だなあと思う。
「そままちはどう思う?」
「まかせる」
……そうですか。
「俺はオンラインゲームの定石としては、少し弱いと思う敵を大量に範囲狩りするのがベストだと思うね、同じ事を考える奴は多いかもしれないが」
「強い敵を大量に範囲狩りすればいいじゃない!」
わからなくはないが、MYO(みょー)には所謂ヒーラーのようなサポートをする役割のスキルが無い。相手の能力を落とすデバフこそあるが、現状は全員がアタッカーという事だ。
そういう趣旨のゲームなのか、これから実装されていくのかはわからないが、パーティーのレベルより上位の敵を範囲狩りしようと思えば、ポーションを大量消費していては効率がとにかく悪いものだ。さらにドジを踏んで死亡ペナルティーで経験値をマイナスしていては、いつまでもレベルは上がらない。安全性まで考えると格下を範囲狩りするほうが効率的だ。
「このゲームには回復役がいないだろ? 高級なポーションを叩き続けたら金策にもならないさ」
「うぐぐ……確かにお金は大事ね」
スウは美しく整ったお顔をぐしゃぐしゃにねじまげて悩んでいる。
「決まった? そろそろだよ」
そままちは相変わらずマイペースだ。それにしても文字数の短い言葉ばかり発してるな。
「じゃ、一旦トイノニアの入り口あたりで狩ってみるか」
◆
【トイノニア東山脈】
アップデートの時間が過ぎ、レベルの上限が70まで解放されてレベルランキングが動き始めた。。
現在いるフィールドはモンスターのレベルが52、以前イベントで多人数参加型のダンジョンが現れたフラリムの街とトイノニアの街の境目付近である。
あれだけデカく目立っていた神殿のダンジョンが突然消えるとなんだか寂しさすら感じてしまう。またそのうち再来するんだろうか。
「ねえササガワ、この辺レベル52よ? さすがにモンスターが弱すぎて数発で倒せちゃうわよ」
「いいんだよそれで」
モンスターとのレベル差で入手できる経験値テーブルはゲームによって随分差があるが、MYO(みょー)は自分とモンスターのレベル差が9までは経験値が入手できる事を確認している。つまり最悪どんなに装備が弱くても、9レベル下を倒せさえすれば一応レベリングはできるわけだ。
一番移動速度が早く、かつ遠距離攻撃を持っているスウがひたすらにフィールドを走りながら一撃ずつモンスターに魔法ダメージを入れていく。するとモンスターは走り回るスウを追いかけるようにわらわらと群れていく。
「釣り、うまいね」
釣り狩り。MMORPGの基本だ。昔のゲームを知っている者はこの狩り方が馴染み深いだろう。そままちも知っているという事は、歴戦のプレイヤーなのかもしれない。
「らららららら!」
変な掛け声を出しながらスウが走り回る。さすがに囲まれると格下でも葬られるので、一定数集まったところで俺が近づいてヘイトスキルを打ってターゲットを交代に出る。
「いいぞスウ、交代だ! そのままそままち、攻撃してくれ!」
「おっけーよ!」
「あい」
俺のヘイトを集めるスキル『プロボック』を合図に、モンスターが寄ってきた所へそままちの大砲が乱射される。
いやしかし、爆発がすごすぎて全く目の前が見えない。一体一回で何発撃てるスキルなんだろう。俺気になります。
パーティーを組んでいるので、ダメージの表記だけはインターフェースに見えている。攻撃が止んだ頃にはモンスターは消滅していた。
そして俺たちはログを見て顔を見合わせる。
[経験値取得:326EXP]
[経験値取得:326EXP]
[経験値取得:326EXP]
[経験値取得:326EXP]
[経験値取得:326EXP]
「うーん」
「んー」
「……」
感想は皆同じだとすぐにわかった。通りでこの辺りにプレイヤーが少ないはずだ。アップデートの前にすでに研究しつくされていたのか。
レベル55では一体あたり2000EXP……控えめに言っても1500EXP程度は欲しいところだ。3人だともう少し上位のモンスターを無理して狩る必要がありそうだな。
「経験値美味しくないわ! 移動しましょ!」
「そうだな……」
もう少し上となると……トイノニアの街より奥のフィールドか……。
「あの街どうにも苦手なんだよな」
「行くわよ! ササガワ、そままちさん!」
「うい」
「聞いちゃあいねえ」
スウはいつもの通り人の話も聞かず、俺の苦手な街『トイノニア』に向けてドシドシと進み始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます