第25話[探索イベントはまったり]
◆
大型ダンジョンを初回クリアしてから数日が経った。結局の所ダンジョンは期間限定のイベントもので、あと3日もすれば消えてしまうそう。
それと並行して今日から新しいイベントが開催されており、これからスウと共に参加する所だ。
「マップを探索して隠された卵を探せ! イベントか……」
「イースターエッグハントね!」
……確か今現実は秋だったハズ。まあ、イースターの時期では無いが、イベントの趣旨としてはそういう事なのだろう。
「オンラインゲームにはよくあるやつだ。マップのどこかに隠されたアイテムを探してクエストをクリアする……って感じだろうな」
「へーそうなの? すっごく面白そうじゃない!」
面白そうかなあ? と思う。なにせ俺はすでに今存在するほぼ全域を片っ端から歩き終わっているからだ。卵を探すためにこの広大なMYO(みょー)の中をあてもなく歩き回るのは流石に骨が折れる。
「まずはルーレンサからよ! クエスト受注は街の出口の衛兵らしいわ! いくわよササガワ」
「いくわよ」と発言している時には、すでに鎧を掴まれて引きずられていた。
「分散して探して、見つけたら連絡を取り合うってのじゃダメなのか?」
そう言うとスウはハッとした顔をした。
「あんた頭いいわね」
「どうも」
てっきり「楽しみがなくなるでしょ!」と言われるかと思ったが、スウはネタバレもズルでもなんでも来たれ女だったな。
◆
フラリムの街からルーレンサの街へ走って20分。着いたらすぐに俺は西門から、スウは東門から探索を始める事にした。見つける卵の数は合計8個、見つけたらアクセスするとカウントされる仕組みのようだ。
パーティーチャットの範囲は限られているので、見つけたらメールシステムを使って場所の座標を送り合う事になっている。
こういったものは大体同じくらいの距離感で散っている事が多いので、まずは適当に一つ見つけて埋めていく事が大事だろう。
最後までみつからなければ、酒場で誰かから情報を買ってしまった方が早いかもしれないが、それはMMOPRGを楽しむものとしては微妙だ。
見慣れたルーレンサ周辺の森林地帯も久しく散歩のように歩くとなんだか新鮮に感じる。途中ミノタウロスが攻撃してきても、俺の防御力豆腐の鎧ですらダメージを受けない事にレベルが上がった事を感じるな。
歩いて5分程度、初心者が狩りをしているのを横目に歩いていると、インターフェースに光が点滅する。
「スウか? 早いな」
[8004 5682]
メール本文がこれか……本当に座標だけ送ってきたんだな。ってか見つけるの早いな。敏捷の速さを使って全力で駆け回っているんだろうな。
その後スウが3件メールを出してくるまでに、俺は一つも見つけられていなかった。初心者の狩りを少しばかりタンクして手伝ったり、生活クエストでアイテム収集をしている人を手伝ってみたりして、久々のゆったりなMMORPGを満喫していた。
クエスト対象が見つからないので飽きてルーレンサの街中へ戻ってきた。初期リスポーン地である中央の噴水に座って数ヶ月前にここでチュートリアルのNPCに絡まれた事や、頭上にチャットが飛び出たりしたのをふと思い出す。
きっと数年後には、ここが帰りたい街になっているのだろうなと少し感傷的になっていると、後から何かで殴りつけられた。
「いてえ、誰だ」
「なーにサボってんのよ!」
スウだ。甲冑の上からとは言え杖で殴りつけなくてもいいだろうに。
「おじさんはこういうの疲れちゃうんだよ」
「だーからあんた何歳よ? おじさんって言ってもそんな歳じゃないんでしょ〜?」
スウとはあまりプライベートな話はしたことがない。というか、おじさんだとバレると離れていってしまいそうでちょっと嫌なんだ。
「スウはどこからそんな元気が出てくるんだ。若さか?」
「私未成年だし!」
未成年……輝かしい響きだ。ってそうなのか!? 若いな!
「それであんた1つも見つけてないわけ?」
「いや、今一つ見つけた」
そう言って今し方噴水の中に卵のオブジェクトを見つけてアクセスした。
「これであと半分ね」
このペースならあと1時間もあれば集め終わるかな。フラリムの街とトイノニアの街の分があるからあと5時間コースくらいは覚悟か……。スウは全部のクエストをやりたがるだろうしな。報酬は一体何がもらえるんだろうか。イベント品だし、定番だと外見変更アイテムとかだろうか?
「じゃあササガワ!あんたは東から内周を時計回りに一週してきて! 私は外周側を走ってくるわ! 何かあったら連絡、じゃ!」
言うだけ言って走り去っていくスウ。おじさんは重い鎧の腰をあげて内周沿いならまだましか、と思いつつ歩き出した。
ルーレンサの街は以前より初心者の数が減り、おだやかな雰囲気だ。NPCは相変わらず忙しそうに稼働しているようで、酒場などは盛り上がっている。
要塞のようなこの街だが、MYOでは一番好きな街だ。遠くからは相変わらず鍛冶屋が鉄を打つ音が響いてくる。
ずっと、ここに住み着いていたいと改めて思うおじさんだった。
ゆっくり景色でも眺めながら、街の内周側のイベントアイテムを探すとしよう。
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