第24話[レアな素材と製作武器]

「これ店売りでいくらだ?」

「12000テレアで引き取ります」


 俺、正確には俺とスウは多人数参加型のダンジョンから重い素材を持ち帰り、現在長らく拠点としているフラリムの街でNPCに売値を確認しているところだ。

「12000か、じゃあいいや」

「まいどありー! また来てください!」

 NPCは売買をせずに去ろうとしてもテンションが高く前向きだ。ちょっと怖いくらい。


「持ち帰ったどのアイテムも店売りははしたお金ね。やっぱりプレイヤーに対して売るしかないかしらね」

「そうだな」


 とは言え拾ってきた素材、アイテム名称は[中型メイズ合金]と書いてある。まずはこの素材が何に使える物なのか判別する必要がある。なにせ今までで一回も流通していない素材で、情報がまだないのだ。

「誰か鑑定できる人を探すしかないわね、武器製作してる人とかいないかしら」

 知っている奴で、武器を作れそうな人……。

 一人、巨大な大砲を使う少女を思い浮かべる。

「そままちならわかるんじゃないか?」

「あー……あの子ね」

 そままちは以前ダンジョン攻略を手伝ってもらった火力の高いアーチャーだ。スウがさっと目を逸らすが、苦手なのだろうか。


「フレンド登録してあるし、連絡を入れてみるよ」


 俺はインターフェースを開くと、フレンドからメッセージ作成をタップして進める。MYOはお互いの距離が離れていると連絡が取れない。個人チャットで語りかけるのも、せいぜい目に見える範囲にいなければ声が聞こえてこないのだ。代わりにテキストメッセージという形で連絡をいれることができる。

 そままちに送る内容はこうだ。「新ダンジョンから見た事ない素材を手に入れた。何に使えるものか確認してほしい。報酬はブラックベリーエールをおごるよ」

「送信……っと」


 それから10秒もしないうちにインターフェースにカーン! といった変なSEが響く。メールの到着音だ。


 開くとそままちが即返答してきていた。内容は……「いまどこ」これだ。

「おーいスウ、そままちが釣れたぞ」

「なら素材売りは安泰みたいね、あんたに任せといていいかしら? どうせ重すぎて運べないし」


 金目の話からスウが離れるなんて珍しい。

「わかったよ、いい感じに売っておく」


 そう言い放ってからスウはインターフェースを開いて画面と睨み合いをしているようだ。彼女はダンジョンから戻って以来、度々唸って何かを計算している様子だ。新しい装備の構成を考えているのか、なんだろう。


 酒場でそままちを待つ間、ふとフラリムの空が夕焼けに包まれている事に気づく。このゲームは時間帯が変動していく仕様だが、リアルタイムよりも体感はゆっくりだ。

 西洋の露店広場が連なるビジュアルが赤く焼けていくのがべらぼうに格好いい。近頃攻略や金策に忙しくて、この世界がだんだん当たり前になっていた事に気付かされるな。


「あい」


・そままち


 眠そうな顔をしたそままちが現れる。相変わらず背中に背負ったボウガン……いや、大砲のような武器が一人で歩いているように見えるな。


「久しぶりだな。ギルド抜けたのか?」

「崩壊した」


 崩壊って……。まあ、新しいゲームのギルドは設立されては解散を繰り返してデカいところと小さいところが極端に割れてくるのがベターな進行だからな。

「それで見た事ない素材って何?」

「ああ、早速だけどこれだよ」

 俺はインベントリから素材をプレビューモードで具現化する。

 プレビューモードは、素材の権限を自分に持ったまま目の前に出す事ができるモードだ。主には人に武器を見せたりする時に便利な機能と言える。

 そままちが素材に鑑定スキルを使用する。特にこちらから見えるエフェクトはないが、挙動でスキルを使用している事はわかるようになってきた。

「むむ……」

 いつにも無く真剣な表情で鑑定をするそままち。

「どうだ? 何に使う物だとかわかるか?」


 ふむ……と言った表情で一息をついてから俺の方を見て、口を開くそままち。

「喉が乾いた」

 あーはい。飲み物を奢れってことですね。かしこまりましたー!


  そままちにブラックベリーエールを奢り、飲み干した彼女はやっと重い腰を上げたように話し始める。なんでこんなに偉そうにしてるんだこいつは。

「これは武器素材。製作武器の中では一番ノーマルなシリーズの、流通しているより上の物が作れる素材だね」

「ふむ……」


 武器のシリーズはいくつかの分類がある。モンスタードロップ品、製作装備、ダンジョン系ボスの報酬ドロップ品などだ。

 狩りが基本のMYO(みょー)では、モンスタードロップ品を強化して使う事が一番多い。特異な性能を加えるならば鍛治スキルにスキルツリーを振っている人に依頼してオプションを加えていく。


 製作装備をベースとする利点は、同じ攻撃力のドロップ品よりも安上がりで買える事だ。

 これは鍛治スキルに振っているプレイヤーが増えている事を表していたり、仕様のレベルが55で止まっている故に狩りによるドロップ品の流通量が減っている事を指しているとも言えるけどな。


 ダンジョンで拾ってきた素材[中型メイズ合金]はそのベース武器の上位物を組み立てる素材のようだ。


「これいくら?」

 まあ、そうだよな。買い取って武器を作って売れば、他にクリアした者がいない今この瞬間は飛ぶように売れるはずだ。


 フラリムの酒場はいつもプレイヤーで溢れている。どの時間でも、憩いの場や情報交換の場、待ち合わせなどにとても心地の良い場所だ。

 そんな中で俺とそままちの間には沈黙の交渉合戦が行われていた。


「1個10万テレア」

「むり」


 参考までに、現状流通している最強武器の素体が300万テレア程だ。 

 現状ゲーム内マネーはインフレでもデフレでも無く、前線で戦える無難武器の素材としては安いくらいだ。


「8万テレア」

「ぐっ……」


 その後10分は交渉が続き、仕上がった武器を見せてもらう条件で1個7万テレアに落ち着いた。

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