拝啓、パーフェクトリーダー

「……最近のアンタのみだよう、妙に気になってたのよ」

 ランが教室で暴れていた日から、三か月が経過した。曇天が窓から透る放課後、私は、生徒会室で軽食を取りながらキーボードを叩くランに向かって口を開いていた。

 仕事中のランは、調子がおかしくなり始める前の、穏やかで冷静で温かくて、完璧なカリスマ性を抱く『生徒会長』のまま、目線だけ私の方を向いた。

 男子は羨望の意、女子は恋慕の意で、皆が一度は憧れる生徒会長。天然のウェーブが掛かった黒髪と優しそうな目、あどけなさが残る童顔に、意外にもすらりとして骨ばった手首。

 私は、そんなランに向かって微笑んでみる。

「でも、杞憂だったみたいね。ちゃんと、しっかりしてるもの」

 ランは、ノールックでカタカタとキーボードを打っていた手を止める。それから徐に、私から目線をずらした。

「……ははっ。そう?」

 ちがいの言葉を信じた結果、アイツは暴走したランを止められなかった。きっと、止めようともしていなかったに違いない。何が気に喰わなかったのかは知らないけれど、ランが暴れて、それを輪違が抑えられなかったのは事実。

 私は、スムーズに行ける所はスムーズに行きたい。だからこそ、常識から外れた人間は苦手なのだ。

『一生懸命やってるんだから』と言われると、『じゃあ私はちゃんとやってないってこと?』と聞きたくなる。まともな人間の頑張りは“当然”で、外れた人間の頑張りは“認めるべき偉業”なのが、私には腑に落ちない。

 ランを擁護する輪違も、ズレていたランも、私は嫌だった。そういった感情を持つことすら許してくれないなんて、なんて心が狭いんだろう、とも。

 私だって、ランに歩み寄ろうとして、話を聞こうと声を掛けた。それなのに、輪違から『遠慮しろ』と言われては、部外者とされた私にはもう為す術もない。

 

 でも……、まともに出来ているじゃない。わざわざ、あんな事する必要、なかったのよ。

 わざわざ、堕ちる必要なんて、ひとつも。

「安心したわ。これからも頼むわよ、ラン」

「………………うん」

 あくまで、私はランの、完全無欠のリーダーの支えになるべき存在、副会長だ。だから、私は、出来るところまで、端から端まで、ランを支える。

 私にできること、私にしかできないことは、つまり、それだから。

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