駿才を壊す
「会長、最近ずっと暗い顔ですね……」
「まあ、無理もないんじゃない?」
「
丸眼鏡をかけた会計の後輩、
「まあ、昔からの仲だから……」
朝沼の含みのある言い方にも、色々と誤解が生まれそうだったけれど、俺はさして言及をしなかった。
朝より幾分か柔らかくなった風を通ってきた西日が射す生徒会室が、妙に狭くて痛い空間に感じられた。
「後輩にも心配されるほど、辛気臭い顔してんじゃないわよ、ラン」
「……」
校門を出てからずっと、ピッタリと後ろについてくる朝沼を一瞥してから、俺は目線をずらして帰路につく。俺のその態度に思うところがあったのか、朝沼は一層離れる気配を見せなくなった。
「ちょっと!返事しなさいよ」
朝沼の、女特有の高い声が煩わしい。真剣な思考を放棄して、真空ができた俺の頭に響いて、痛くなる。
「……形作って他人に読ませないようにしているくせに、その『分かってほしい』オーラは一体、何?構ってほしいの?」
そろそろ、人に無遠慮に踏み込んでくるコイツと、縁を切ったほうが良いかもしれない。朝沼といたら、パーソナルスペースが朝沼の足跡で染まってしまいそうだ。
そもそも、朝沼に分かってほしいと思ったことは一度もない。見当違いのハッタリだろうか。
真珠に向かって「昔からの仲だから……」と言ってはいたけれど、俺は朝沼に何も話していない。彼女は本来、何も知らないはずで。古い友人を名乗るつもりなのかもしれないけれど、中学時代に同じクラスだったことがあるだけ。俺を知悉していると嘯く彼女は、正直なところ、かなり迷惑だ。
「ねえちょっと、ラン……」
「ちょっと黙ってほしい」
心外だけれど、俺に言い返されると思っていなかったみたいだ。朝沼は吃驚したように口を閉じた。別に、ここまで踏み込まれているのだから、罪悪感や申し訳無さはなくて、朝沼の顔を見ても、良心は痛まなかった。
俺は、朝沼を再度一瞥すると、先程よりも速度を速めて歩き進んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます