駿才を壊す

「会長、最近ずっと暗い顔ですね……」

「まあ、無理もないんじゃない?」

朝沼あさぬま先輩は、何か知っているんですか?」

 丸眼鏡をかけた会計の後輩、真珠まことと、同級生で生徒会副会長の朝沼が、机に突っ伏したまま動かない俺を遠巻きに眺めている。それでも、俺は二人のその声に反応を示すことはない。示せるほどの気力がないから。

「まあ、昔からの仲だから……」

 朝沼の含みのある言い方にも、色々と誤解が生まれそうだったけれど、俺はさして言及をしなかった。

 朝より幾分か柔らかくなった風を通ってきた西日が射す生徒会室が、妙に狭くて痛い空間に感じられた。


「後輩にも心配されるほど、辛気臭い顔してんじゃないわよ、ラン」

「……」

 校門を出てからずっと、ピッタリと後ろについてくる朝沼を一瞥してから、俺は目線をずらして帰路につく。俺のその態度に思うところがあったのか、朝沼は一層離れる気配を見せなくなった。

「ちょっと!返事しなさいよ」

 朝沼の、女特有の高い声が煩わしい。真剣な思考を放棄して、真空ができた俺の頭に響いて、痛くなる。

「……形作って他人に読ませないようにしているくせに、その『分かってほしい』オーラは一体、何?構ってほしいの?」

 そろそろ、人に無遠慮に踏み込んでくるコイツと、縁を切ったほうが良いかもしれない。朝沼といたら、パーソナルスペースが朝沼の足跡で染まってしまいそうだ。

 そもそも、朝沼に分かってほしいと思ったことは一度もない。見当違いのハッタリだろうか。

 真珠に向かって「昔からの仲だから……」と言ってはいたけれど、俺は朝沼に何も話していない。彼女は本来、何も知らないはずで。古い友人を名乗るつもりなのかもしれないけれど、中学時代に同じクラスだったことがあるだけ。俺を知悉していると嘯く彼女は、正直なところ、かなり迷惑だ。

「ねえちょっと、ラン……」

「ちょっと黙ってほしい」

 心外だけれど、俺に言い返されると思っていなかったみたいだ。朝沼は吃驚したように口を閉じた。別に、ここまで踏み込まれているのだから、罪悪感や申し訳無さはなくて、朝沼の顔を見ても、良心は痛まなかった。

 俺は、朝沼を再度一瞥すると、先程よりも速度を速めて歩き進んだ。

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