瀉下した簫索

水浦果林

夢を鐫る

 盛大に、硝子が割れる音がした。

 見ると、自分の両手は血だらけで、痛みのせいか小刻みに震えている。このまま攣ってしまうのではないかと思うほど、痛みに耐える両手は無意識に力んでしまって強張っている。

 目の前の輪郭が、次第に意味を失くしていく。落ちない涙が揺れているのか、それとも自分が震えているのか。それとも、その両方か。

 分からなかった。

「ぅえ、か、会長っ!?なっ、何事です……か……」

 丸眼鏡にボブヘアーの女の子が、部屋のドアを勢いよく開けてから、此方を見た。その顔は焦った様子から、段々と驚愕の表情に変わっていった。

「ごめん、ね。驚いたよね……」

 自分の声が、思った以上に震えていることに悲しくなる。どうすればいいかなんて、自分にも分からない。


「会、長……?」


 後輩のその呟きを聞いて、俺はその場で泣き崩れ、壊れた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る