絶望を呼ぶ(?)学内新聞
「うーん……。去年と大して変わらないなぁ」
周囲を見回しながら、
新聞部の部長である彼女は、新入生の勧誘を他の部員に任せ、部活動勧誘で盛り上がる校内を、スクープを探して歩き回っていた。その手には、大きなカメラが握られている。
(やっぱり無難に競技系の強い部活とか、有名人がいる部活見に行くかぁ……)
そう考え、手始めにバスケ部とバレー部を見に行こうと決めて、彼女は足を速めた。
体育館に入るとすぐ、バスケ部側のコートからわっと歓声が上がった。
(スクープの予感……!!)
期待に胸を膨らませ、そのほとんどが男子で構成されたギャラリーの群れに滑り込み、どうにか最前列に出た。
どうやらこれから、部員と新入生の一対一が始まるらしい。
コートに立つのは二人の男子。
片方は、高等部男子バスケ部のエース、
もう一人は、金髪長身、目つきと人相の悪い新入生の少年だった。
ギャラリーの声に耳を傾けると、新入生は二階の観覧席から飛び降りてくるという劇的な登場を果たしたらしい。
(そんなん絶対面白いじゃん!)
萌葉はその瞬間を写真に収められなかったことを強く悔やむ。
しかし、新入生がボールを突き始めた音で我に返り、慌ててカメラを構えて、絶好のシャッターチャンスを待つ。
その後の攻防は、何が起こっているのか萌葉にはよく分からなかった。が、新入生が狩谷を抜き去った瞬間、そして、ジャンプシュートを放つ瞬間を素晴らしい構図で捉えることに成功した。
「……よぉーし、見出しはこれで行こう! うーん、タイトルはどうしようかな……」
手に入れた成果に満足しつつ、体育館を後にしようとした、その時だった。
「ちょ────っっっと待って!!」
突然体館内に響いた少女の声。
慌ててそちらに目を向けてみれば、先程の金髪長身の新入生が、学園屈指の有名人である佐薙花凛に手を掴まれていた。
(え!? こっ、これはひょっとすると……!)
これまで男の気配なんて微塵も感じさせていなかった
明らかに、これまで誰も見たことのない姿だった。
一方の男子は、面倒くさそうな表情だったが、花凛に何事か言われた途端に血相を変え、固まっているように見える。
(一瞬も逃せない!)
そう考えて、萌葉はひたすらシャッターを切った。
そして次の瞬間、誰もが驚愕する出来事が起こる。
少年が花凛の口を手のひらでふさぎ、無理やり黙らせたのである。
そして、顔を近づけ何事か囁いた。
(うぉおおーーっ! スクープゥーーっ!)
それは、新聞部の一員として撮影スキルを磨き続けて来た彼女にとって、決して逃せない瞬間。
その一瞬は、取りこぼされることなくしっかりと記録されたのだった。
その後、掲載された学内新聞の見出しは───
「………………………は?」
美海と連絡先を交換し、授業、そしてホームルームを終えた後、ついに来た(否、来てしまった)花凛からのメールを確認した光誠は、書かれている内容・添付された写真を見て、完全に思考が停止した。
「外空くん? どうしたの?」
口を半開きにして動かなくなってしまった光誠を見て、愛華が心配して声をかける。
「………………………いや、ちょっと」
茫然自失のような状態のまま、荷物も持たず、フラフラと教室を出ていく。
何やら尋常ならざる様子に不安を覚えた愛華は、光誠の荷物を持って慌てて追いかけた。
「………あ、いた!」
ようやく追いつくと、光誠は掲示板の前に立ち尽くしていた。
そして愛華が声をかけようとした瞬間───
「何っじゃこりゃああああああああああああああああああああああああ!!??」
と、絶叫して膝を付いた。
光誠の手から滑り落ちたスマホの画面には、アプリ『NECT』の会話画面。
その内容は────
『本当にごめん。私のせいで、君すっごく有名になっちゃったみたい』
そして、今まさに光誠の眼前に貼られている、学内新聞を撮影したらしい写真が添付されていた。
見出し曰く────
【バスケ部に大型新人加入か!? 学園のヒロインとの関係は!?】
そして紙面にはデカデカと、光誠のジャンプシュートの写真と、興奮した様子で光誠の手を掴んでいる花凛の写真が掲載されていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます