ケンカするほど仲が良い(予定)
「……はい?」
「この学園は演劇部も例にもれず、凄いところで公演したりしてるらしいよ?」
美海の疑問に満ちた声を、詳しい解説を求められていると勘違いしたらしい光誠は、変わらず的外れな発言を続ける。
「いやそうじゃなくて、その……聞いたりしないんですか? さっきの私の態度とか……」
「ん?」
美海の言葉に光誠は一瞬動きを止め、手をポンと打ち合わせて思い出したように言った。
「───あぁ、さっきのぶりっ子?」
「───プッ……ぶりっ子て。表現古くないです?」
「なっ、なんだと俺がおっさんくせぇだと!?」
「いやそこまでは言ってないですけど」
思わず噴き出した美海に、光誠はなぜか突然態度を豹変させ噛みついた。
同年代の友人がほとんどおらず、これまで関わってきた人々が皆年上だったことも相まって、光誠はあまり若者の趣味嗜好や言葉遣いを知らない。そして、これをかなり気にしている。
少し前に、可愛がっていた友人の娘に、「おっさんくさい」と言われたことに大変なダメージを受けたためである。なお、今も若干引きずっている。
「くっ……! リサーチ不足……!!」
「何と戦ってるんです?」
(あれ、なんかイメージと違う……?)
美海の中で、先程までの人相と行動から受けていた光誠の印象が少し変わる。態度と顔から、誤解を受けやすい正義漢なのかと考えていたのだが、どうやら意外とおちゃめな一面もあるらしい。
そして、目の前で渋面を作っている光誠に、妙な親近感と滑稽さを覚えてしまい、美海の生来のいたずら好きな一面が顔を出してしまった。
「あーなるほど。ひょっとして……結構気にしてました? 外見に似合わず繊細なんですねぇ」
と、ニヤニヤしながら、からかうような言葉を口にしたのである。
光誠は別に好戦的な質ではない。
だが度合いによっては、売られたケンカを買うくらいの性格ではあった。
「……ほぉ? 言うじゃねぇか、玉の輿狙いの腹黒二面性女ちゃん?」
「……へぇ。それはまぁなんとも……友達いなさそうな顔の人が言いそうな、陰湿な意見ですね」
「くぉらぁ! 顔は禁止カードだろうがぁ!」
「私のぶりっ子(笑)だってこのカワイイ顔ありきですぅ! つまり私のぶりっ子(笑)への言及は禁止カードですぅ!」
「クソみてぇな暴論!? あと(笑)付けんなムカつくんじゃあ!」
そんな押収を繰り広げ、二人は息を荒げる。そして光誠は獰猛に笑い、ゆっくりと腰を下ろして、美海にも顎で着席を促した。
「──座んな。久しぶりに……キレちまったよ……」
「…良いでしょう。ボッコボコにされる覚悟はできてますか?」
「はっはっは! 面白い冗談だ」
そうして二人は顔を突き合わせ───
「そんな性格じゃあ同性の友達とかいねぇんじゃねえのぉ?」
「友達一人もいなさそうな人に言われたくないんですけどぉ」
「ざんねぇん。いるんだなぁそれが」
「プッ……少なそ~」
「選りすぐりの精鋭なだけですぅ!!」
「精鋭(笑)」
「じゃあダチバトルしようぜダチバトル! 先行俺なァ!? 覚悟は良いかァ!」
「急に意味不明なバトル始めないでくれます!?」
──ギャーギャーと、みっともない戦いの幕を上げたのだった。
「なかなか……しぶといですね……」
「我慢比べなら負けるつもりはねぇぞ……」
昼休み終了5分前。
最初は醜い争いを繰り広げる二人を物珍しそうに眺めるギャラリーもそれなりにいたが、皆既に教室へと戻ったらしい。残っているのは、学食スペースと教室が近い生徒たちだけである。
二人は思いつく限りの口撃をぶつけ合い、既に(精神的に)満身創痍となっていた。
互いにはぁはぁと息を吐きつつ睨み合う。
そして────
───堰を切ったように、笑い出した。
「あっはははははは! くっだらねー! なーにやってんだ俺ら!!」
「あははははは! ホントですねぇ! はーお腹痛い!」
二人はひとしきり笑い合い、ガッチリと握手した。
「──改めて、高等部1-Aの外空光誠だ。よろしく」
「中等部3-Bの
「おう」
そうして連絡先を交換し、席を立つ。
「今日はもう時間ないし、また機会あったら話そうぜ」
「そうですね。今日は楽しかったです。……というか、中等部校舎まであと5分で戻れる気が全くしないんですけど」
「送ったろか?」
「いや、それだとセンパイも間に合いませんよ?」
「構わんよ。俺のせいでもあるし、これも何かの縁だと思えば、別に。遅刻しても、周りからは精々『あぁやっぱりアイツ不良なんや』って思われるだけさ」
「……じゃあ、お言葉に甘えちゃいますね! くらえカワイイ上目遣い!」
「ワ~ウレシー。セスジガアワダッター」
「おいちょっと待てカワイイやろが」
そうして二人は、仲良く授業に遅刻したのだった。
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