部活動見学(5)
「桐井……」
聞かない名前だ。自分が知らないということは、どこかの有力者の子息とかではないだろう。
光誠はそんなことを考える。
「あれっ、お久しぶりです。桐井先輩」
「あぁ、久しぶり。元気そうだな、清滝」
どうやら二人には交流があるようだ。愛華はその立場上、人脈を広げる必要があるのだろう。
「今日は彼とは一緒じゃないんだな」
「えぇまぁ。今頃鼻の下伸ばしてご満悦なんじゃないですか」
「にしては清々しい顔だ」
「知ってる癖に」
「束の間じゃないと良いなー」
「嫌なこと言わないでくださいよ」
そんな会話に、光誠は少し驚く。どうやらこの桐井という男、愛華が世話をする彼───
(口が固い、信用できる人物という事)
そこまで考え、いい加減会話に入らなければマズイと感じ、談笑する二人に口を挟む。
「清滝さん、知り合いなんだ?」
「うん。中等部の時お世話になったんだ」
「…て言っても俺は高等部からの外部入学だから、直接かかわる機会はあんまなかったけどね」
話を聞くに、どうやら二学年上であるらしい。人当たりと愛想のよい先輩のようだ。
「昨日はもっとお堅い感じがしたような気がします」
「クソ真面目モードだったからかな。大学受験での面接の練習を先生に手伝ってもらってたんだ」
「なるほど」
と、そこまで話して、英也はハッとしたような表情になる。
「いけね、勧誘に来てたんだった」
そうこぼし、手に持っていたビラを差し出す。
「……ボランティア部?」
「そう。学内学外問わず、活動内容なんでもござれの部活さ。依頼も承ってるよ」
「活動実績:恋愛相談→成就、学祭裏方、『
つらつらと並べられた、いかにもらしい活動の中に、とんでもないものを見つけて光誠は思わず叫ぶ。
隣でも、驚いたように愛華が口を覆っている。
「どう? いろいろあるでしょ?」
「いや、最後のに関しては他と同列に並べちゃダメでしょ!?」
『至誠館国交』。
簡単に言えば、日本で行われる国交の代表的な場である。『至誠館』という馬鹿みたいに金をかけた施設で行われるため、この名が付いている。
その内容は当然世界中から注目されることであり、日本でも、行われれば必ずニュースで大々的に取り上げられるイベントである。
こんなトンデモ活動をしている部活があることは微塵も知らなかった光誠は、未だに衝撃が抜けずに呆然とする。
「数年に一回くらいの頻度でやってるんだけど、知名度ないのよなホントに。みんな自分のステータスのことばっか考えてるからだろなぁ」
「いや、でもこれやりようによっては……」
「うん。うまくやって評価されれば、スコアめっちゃ稼げる」
「……それ、話していいんすか?」
「清滝とは知らん仲じゃないし、君も悪いヤツじゃなさそうだし」
「はぁ」
自分の顔を見てそんな評価をする人は珍しい。この人とは仲良くなっておいた方が、学園生活も楽しくなるかもしれない。
「人数と、それから活動頻度はどれくらいなんですか? 私はその、彼のこととかであんまり…」
「人数は二年2人、三年も俺含めて2人だな。活動頻度は週一で集まるくらいで、各々で好き勝手に依頼貰ってきたりしてる。規模によるけど、一人でやったり皆でやったり……」
「自由度高いっすね」
「でしょ? 報連相きちんとできれば問題ないよ。苦にはならないと思う。兼部してるヤツもいるし」
「ん~……」
光誠も愛華も、元々部活に入る気はなかった。それぞれが日常的に、状況によって変わる変則的な生活をしているためである。しかしこの部活なら……
「要相談かな……」
「ん? 誰に?」
「同居人です」
「私も、ちょっと考えますね」
「おっけー。申請はタブレットからね。生徒登録やってれば自前のでもできるから」
「「はい」」
「じゃ、俺はまた勧誘に戻るよ。あ、そうだ清滝」
「なんですか?」
愛華は手招きする英也に近づき、耳を貸した。すると、英也は視線を光誠に向けつつ言った。
「彼氏、作るのも悪くないんじゃない?」
「なっ……別にそーゆーのじゃ……!」
愛華は思わず赤面して弁明をしようとしたが、英也はサッと離れて、満面の笑みで手を振りながら去っていった。
「何言われたん?」
「……別にぃ」
「え、なんでそんなジトっとした目で見るの」
その後、紬に二つ返事で「良いんじゃない?」と告げられた光誠は、積極的な参加はできないかも、という文言を添えて、ボランティア部加入の申請を出したのだった。
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