部活動見学(2):1 on 1
天ヶ室学園の競技系部活動は強豪ぞろいである。
特に運動部はそれが顕著に表れており、どこも基本的に全国大会の常連レベルだ。優勝も決して珍しいものではない。
「おぉ、すごい人数集まってんなー」
光誠と愛華が今見に来ているバスケ部、バレー部も当然その例外ではない。
しかし天ヶ室学園は、よほどの人材でない限りスポーツ推薦等も取ることはないので、この学園の運動部は、真に文武両道の者しか生き残れない世界なのである。
「やっぱちょっとハードル高いよな」
「だよねー。外空くんスポーツ経験は?」
「どれもある程度は、って感じかな。本格的に一つのスポーツに打ち込んだ経験はないよ」
コートは中央で区切られ、それぞれをバスケ部とバレー部が使用している。
雰囲気はどちらも穏やかで、基礎練習の見学スペースや、部員との交流スペース、体験スペース等がある。
「文化部の方でこの雰囲気を想像してたんだけど」
「まぁ文化部って稼げるスコアはたかが知れてる部分があるし」
「確かに。運動部は喰らい付ければその辺確実だもんな」
そんなことを上階の見学席で話していると、ちょうど真下近くでわっと歓声が上がった。
覗いてみると、どうやらバスケ部でエース部員との 1 on 1 が出来るらしい。歓声は、男子部員のプレーの鮮やかさに対しての物のようだった。
「……やってみれば?」
「よせやい。恥かくだけだぜ」
すると、その男子部員がちょうど上を見上げ、光誠と目が合う。
「キミ背ぇ高いね! どう? 一回やってみない?」
彼の声掛けはあくまで勧誘活動の一環だ。本人もそれほど意識したわけではないだろう。
だが、どうやらエースじきじきの声掛けはあまりあるものではないらしかった。周囲が露骨にどよめき、皆が光誠に注目する。
「…え。なにこの雰囲気? 圧が凄いんだけど…」
「ほらほらぁ。せっかくだし誘いに乗ってきなよ」
愛華が笑いをこらえるようにそんなことを言う。完全に面白がっている顔だった。
光誠は一瞬逡巡し、それから吹っ切れたようにニヤリと笑うと、ウィンクした。
「良いぜ。見とけよ俺の散り様を! とぉっ」
言うや否や、光誠は二階の観覧席から飛び降りた。
そこまで高いわけではないが、あまりにも突然だったため、愛華も思わず「えっ!?」と声を上げて下を覗き込む。
すでに彼はキレイに着地して、エース部員の前に立っていた。
周囲もその華麗(?)な着地に歓声を上げ、二人に注目する。
エース部員の前で「サーセン」と頭を下げる光誠の様子を見るに、どうやら飛び降りを厳重注意されているらしい。
その後、光誠が借り受けたバスケットシューズに履き替え、二人は距離を取って 1 on 1 の体制を取る。
攻めと守備で一本ずつ。結果がどうなろうと、ここではそれで終わりである。
衆目の中、対決が幕を開ける。
先行は光誠。
バウンズでパスを受け、感触を確かめるようにボールを付く。
それなりに慣れているのが感じ取れるような、中々に様になっている姿だった。
エース部員は軽く腰を落とし、光誠の動きに対応する姿勢を取る。
ダンッ ダダンッ ダンッ────
(チェンジオブペース───)
エース部員は目を細め、スティールのタイミングを見定める。
数回。
光誠はボールを付くペースをずらし、チラリとリングに視線をやる。
エース部員が、そのあまりにも自然な動作に微かに反応した。
瞬間。
光誠の長身が、消えたと錯覚するほどの速さで一気に沈み込み、右から中に切り込んだ。
(────っ!)
ほんのわずかに出遅れるエース部員。だが彼の反応速度と敏捷性は群を抜いている。
身体を光誠の動線に滑り込ませ、速度を落とさない光誠のボールをカットしようとした。が───
ギャキッ!!
ボールを弾くはずだった手が、空を切る。
響いた音は、急停止した光誠のバスケットシューズが上げたものだった。そして───
(───ターンアラウンド!?)
速度を完全に殺し切ったうえ、そこから身体の軸をブラさずに左側に回転する光誠に、エース部員は驚愕する。
そこは彼であれば、距離だけならまだ追いつける位置だった。
しかし、目線のフェイクによる出遅れのカバーのため、彼は身体を全力で光誠の動線に振ってしまっていた。
そして身長差。エース部員の彼も決して低くないとはいえ、光誠の方が高く、腕も長い。
結果、光誠のジャンプシュートに数ミリ届かなかった。
放たれたボールは弧を描き───
───ガガシュッ
綺麗に、とは行かずとも、リングに吸い込まれていった。
「────ありがとうございました」
「いやいやこちらこそ! てかめっちゃ上手いね! 経験者? ぜひウチに───」
「いやーーあははは」
猛烈な勧誘を躱し、どうにかその場から離れて一息つく。
結果は一勝一敗。
互いが攻めにて勝利を収める結果となった。
(とゆーか守備側じゃ手も足も出んかったな。さすが全国大会優勝常連校エース)
守備側では相手の動きにひたすら翻弄され、ものの見事に敗北を喫した。
攻撃側でもギリギリだったので、実力差は歴然だろう。
それ故、勝ち取ったこの辛勝を誇ろう、と思考を切り替える。
そうして、「つかれたー」と息をつき、コートから出ようとした時だった。
「ちょ────っっっと待って!!」
手を掴まれて、足が止まる。
振り返ると、そこには黒髪ポニーテールの「大和撫子」といった風貌の少女が、息を切らせて立っていた。
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