天ヶ室学園(3):Entrance Ceremony


 高等部第一体育館。


 バスケットコート三つ分はある高等部で最も広い体育館で、コートをぐるりと囲む形で上階にそれなりの数の観覧席がある。


 高等部の入学式は、その上階から親が見ることが出来るようになっている。



(おぉ……。見たことある顔が結構ある)



 政治家や企業のトップ、中には俳優なんかもいる。

 生徒の中にも、ステータスや有望なスコアで名が知れている者達も多いようだ。



(流石は天下の天ヶ室学園って感じか)



 既に入学式が始まって一時間ほど経つ。

 光誠は、お偉いさん達の祝辞を聞きながら、どうにか眠気を堪える。



「新入生代表挨拶。深山みやま リーディア 絵麻えま


「はい」



 とんでもねぇ大物まで出てきた。まぁ関わることはないだろうと話半分に聞き流す。



「続いて、仲宗根グループ代表、仲宗根なかそね銀二ぎんじ氏からの祝辞です」


「………」



 その名前に光誠は少しばかり眼を鋭くするが、どうやら本人は都合がつかず来れていないらしい。

 当たり障りのない祝辞だけで終わり、何事もなく式は終わった。

















「皆さんはじめまして! 今日から君たちの担任を務めます、澄川すみかわとおるです! よろしく!」



 そんな挨拶を、緊張をどうにか押し殺しながら笑顔で告げる。

 どういうわけか新参の僕が、天ヶ室学園高等部、新1-Aを担当することになってしまった。


 本来であれば副担任のはずだったのだが、担任担当だった先生が突然の産休に入ってしまい、そのお鉢が回ってきてしまったのである。


 当たり障りのない自己紹介をしつつ教室を見回すと、その中である生徒が目に留まる。



(……うわぁ、不良っぽい。名簿データの顔画像と大分違くない?)



 くすんだ金髪に、座っていても分かる高身長。

 顔は非常に整っておりイケメンなのに、目の下に隈があり、眼光がとても鋭い。ものすごく不機嫌そうな雰囲気を醸し出す少年だった。


 周りの生徒たちも、おっかなびっくりといった様子でチラ見している。



(外空光誠くんか。……すごい厄介そう)



 彼から視線を外し、改めて教室を見渡す。他に目立つ生徒と言えば────



(清滝愛華さん。中等部から成績、態度共に優良。頼りになりそう。ってかすごい可愛いな)



 目立ったステータスはないが、この学校でそんな評価が貰えているというだけで、十二分なスコアを獲得できているといえるだろう。

 中等部時代は、現在1-B在籍中のとある男子生徒とほとんどずっと一緒にいたという話を聞いた。


 他の生徒たちも、権威ある親を持つ子供が多数いる。



(やっていけるんかなぁ、僕)



 内心で涙を流しながら、徹はそんなことを考えた。










「えっと……外空くん?」



 愛華はおそるおそる光誠に話しかける。

 彼は、自己紹介時も近寄りがたい雰囲気を放ちつつ簡素に済ませていた。



『あとで会う時、もしかしたら大分雰囲気違うかもしれんけど───』



 これのことを言っていたのだろうか。


 話しかけられた光誠は、ゆっくりと愛華を見て───



「…おー、さっきぶりー」



 ゆっくりとした口調でそう言った。



「な、なんかさっきと全然違うね?」


「…あー、生活リズムがなー。夜ちょっと色々あって、睡眠時間があんまりとれてないのよ」


「でもさっきは…」


「起きたてだったから、というか…。大体9時ごろから睡魔が来るのさ」



 頭もあんま回ってない、と自嘲気味な笑みを浮かべてそうこぼす。



「多分クラスメイトからすっごい誤解を受けてるよ?」


「……接していくうちに慣れてもらうつもり。清滝さんには他の連中との仲介役になってもらおーっと」


「なにそれ」



 目を閉じてそんなことを言う光誠を見て、思わずクスリと笑いながら、愛華は思う。


 こんな雰囲気になってしまっているが、内面は初対面時とあまり変わらないのだと。



「俺を助けておくれー」


「それじゃあ早速仲介役やろうかな。この後クラスの皆で、親睦会ってことでファミレス行く話が持ち上がってるみたいだけど、行こうよ」


「あ、この後用事あるからそれは無理」


「いやなんでやねん」


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