天ヶ室学園(2)
「ぐぅぅ…! どの辺だ──?」
呻きながら少年はページをめくる。が、そういえばクラスメイト(暫定)が来たのだった、と思い出し、本を閉じて入ってきた少女を見る。
(あれ、この子は確か────)
腰辺りまで伸びた黒髪。ぱっちりとした目に、小さな口。
どこか幼さが抜けきらない顔に見合わない、高等部1年にしては大きい胸。スタイルも良い。
全体が非常に整っているのに、どことなくアンバランスな印象を受ける。
そして、それが不思議な色気にもつながっているような、そんな少女だった。
彼女はぽかんとした表情でこちらを見ている。
うっかり口にしそうになった少女の名前を寸前で飲み込み、一瞬前に見られた自分の痴態をごまかすかの如く咳ばらいをして、少年は話しかけた。
「あー、おはよう。そしてはじめまして。君もこのクラスなのかい?」
「う、うんそうだよ。えっと、はじめまして」
少女は戸惑いながらもそう返す。
(…うん。この子と仲良くなることを、フツーの高校生活を送る第一歩としよう)
少年はそう考え、自己紹介をすることにした。
「俺は
「…私は、
「やっぱり内部進学って多いんだな。君もひょっとしてどこぞのお嬢様だったりする?」
「いやぁ私は別に──」
(まぁ、知っているのだけど)
当たり障りのない会話をしながら少年──光誠は、内心でそう考える。
「ところで、随分早いんだね。えっと……外空くんは」
「いやぁ、お恥ずかしながら庶民でね。ココに入学できたことが嬉しくて、つい。やっぱダメだったかな」
「ううん、そんなことないよ。むしろ私は話し相手ができて嬉しい」
少し照れたように、はにかんでそう言う愛華。
そんな彼女の仕草に、「これは魔性の天然ちゃんだな」なんて(失礼な)ことを、光誠は考える。
「清滝さんはなんでこんな早いん?」
「仕事を押s……任されまして」
「あー。なんか察したわ」
しかしそれにしても早いような気もする。見たところ教室の開放をやっていたようだけれど、明らかに────
「一人でやる仕事量じゃなくない?」
「多分他に捕まえられなかったんだと思う」
げんなりした様子でそう言う愛華に、光誠は同情した。
「…よし! じゃあ俺が手伝おう! あと終わってないのはどこだい?」
「ここで最後だよ」
「あ、そう…」
微妙な表情で「なんかごめん」と謝る光誠を見て、愛華はクスクスと笑い、「気にしないでよ」と彼を明るく慰めた。
その後、しばらくなんでもない会話を楽しんでいると、愛華の持つスマホから電子音が鳴り、画面を見た彼女は、途端に顔をげんなりさせた。
「どしたん? 急にそんな疲れた顔して」
「えっ? あ……」
自身の顔に手を当て、表情がイヤそうなものに変わっていたことに気付いた愛華は、諦めたようにため息をついた。
「ごめん、私行かなきゃ」
「や、別に謝んなくても良いけど」
「…うん。じゃあまた後でね」
うんざりしたような顔で、「ホンット自分本位」とブツブツ言いながら教室を出ていこうとする愛華に、光誠は声をかける。
「そうだ。言い忘れてたことなんだけど」
「うん? なに?」
「あとで会う時、もしかしたら大分雰囲気違うかもしれんけど、変わらず話しかけてくれると助かる」
「? 分かった」
そうして愛華が出ていった後、光誠はため息をつき、この後すぐに自身を襲うであろう生理現象を待つこととなった。
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