天ヶ室学園(4)
「…長いなー。まだかなー」
光誠のクラス、1-Aは、およそ十数分前にHRを終え、クラスメイト達は予定通り、ファミレスでの親睦会へと向かっていった。
その一方で光誠は、1-Bクラスになった友人()を、学食スペースで待っている。
クラスとしては隣り合っているのだが、先程1-B教室前に寄って見たら、中等部と思しき女子生徒が、教室前にて何やらブツブツ言いながら誰かを出待ちしていたのである。
「『先輩ってボンボンだったんですね!』……うーん、なんか違うような」
とか何とか言っていて普通に怖かったので、場所の連絡だけ入れて1-Bから離れた。
(『ボンボンだった』……。彼のことか)
特にすることもないので、心当たりをぼんやり考えながら待っていたのだが───
「ん! コレおいしい!」
隣に学年でも最高レベルに可愛い子がいるのはなぜなのだろうか。
先程、助けを求めたくせに、それをバッサリ切り捨てた自分に鋭いツッコミを入れた、清滝愛華である。
何やらご満悦な様子でスムージーのようなものを飲んでいる。
「中等部のころからあっただろうに」
「んーん。初・中・高等部ってメニュー結構違うの。これは当たりっぽい。リピートしよっ」
「へー。……ところでなんでいるワケ?」
「それはこっちのセリフだよ。用事あるって言ったのに何でここに?」
「俺は友達待ってんだ。内部進学生」
「……なら私のことは、その子に聞けば知ってるんじゃないかな」
急に雰囲気を曇らせ、そんなことを言う愛華。
それを聞いて、光誠にも思い当たる節があったが、自分のイメージする彼との乖離に少しばかり首をかしげる。
(クラスの親睦会をキャンセルさせてまで?)
「……はーぁ。なんで他クラスの親睦会に参加しなきゃいけないんだか」
「なんか大変そうだな」
「もうちょっと気の利いたこと言ってよー」
「とっても面倒くさそう! 巻き込まないでね!(裏声)」
「……もう助けてあげない」
「ふざけ過ぎました。ご勘弁を」
「よろしい」
あまりに立場が弱い自分に涙がこぼれそうだぜ。そしてこういう相手が嫌だと感じる話題は、さっさと変えるに限る。
「ところで、学食は中等部と同じメニューどんなのあんの?」
「えっと、私のオススメはね────」
二人の会話の内容が二転三転し、ほくろの存在意義(?)に関して議論をしていた時だった。
「ちょっ、ちょっと待ってよ
「何度も言わせないで。用事があるって言ってるでしょ」
一人の少女と、それを追って来た男子の二人組が、何やら言い合いをしながら学食スペースに入ってきた。
そして、少女の方は光誠たちに気付くと、小走りでこちらに近づいてきた。
「ごめん。お待たせ」
「いや、あんま待ってないし良いよ」
「あれ、
「お、愛華だ。そっか、A組だったね」
軽くそんな会話を交わし、待ち人が来た光誠が愛華に「じゃあまた明日」と告げようとした。が──
「ちょっ、ちょっと待って!」
後から追ってきた男子に止められた。彼は興奮しているのか、突然騒ぎ立て始める。
「宮鷹さん、何考えてんの? これから一年一緒のクラスでやっていくための親睦会に参加しないで、この人との約束を優先するの? 友達だって言うから女子だと思ってたんだけど? ダメだよ、絶対ダメ! 君は絶対に僕と一緒に────!」
うーわ。
と、光誠は内心で思いつつ、隣の愛華をちらりと見る。
清々しいほどの無表情だった。
それを見て光誠は、やはり彼女の待ち人はこの男子だったことを確信する。
というか、愛華には自分の都合に付き合わせて親睦会に参加させなかったくせに、とんでもないブーメランである。
同情の意を込めて、愛華の肩を軽くたたく。すると彼女はこちらを見上げ、微妙そうな表情で微笑んだ。
「おっ、おい! 何愛華に馴れ馴れしくしてるんだ! 女性の身体を軽々しく触るなんて、君一体何考えてるんだ!?」
げぇ。飛び火してきた。
仕方がないので彼の方に向き直る。
すると何故だか怯んだような顔をして、少年は一歩後ずさった。声も小さくなる。
(そんな顔怖いかな、俺。ちょっと傷つくぅ)
怖い。おそらく百人に聞けば百人が同様の答えを出すだろう。
無表情でも十分怖いが、今回は面倒くさそうな表情なので、その胡乱げな雰囲気が怖さに拍車をかけているのである。おまけにデカいことがとどめになっている。
「察するところ、お前もこの子に親睦会をキャンセルさせたみたいだけど?」
「いっ、一緒にするな! 愛華も僕がいる方に参加したいさ! ねぇ愛華?」
「うん、そうだね」
ひょえー、ザ・貼り付けたような笑顔ぉ。
二人の関係を知っている光誠は、二人が一緒にいた期間から考えればさすがにこれは気付くだろ、と思った。が────
「ほらね。僕らのことを知らない人にとやかく言われる筋合いなんてないんだ」
マジかコイツ。
あんぐりと口が開きそうになるのをどうにか堪え、「そうかい」とだけ返す。
「…ともかく、私は親睦会には行かない。しつこいよ、仲宗根」
「…分かったよ。明日何があったかは聞かせてね」
「え、ヤだけど」
「っ! …行こう、愛華」
「うん」
一人でズンズンと、イライラを隠そうともせずに少年は去って行く。
後を追う愛華は、学食スペースから出る直前にこちらを振り返り、申し訳なさそうに手を振った。
「…高校生って、あんなモンか?」
「違うと思う。でも私も驚いた。アイツがあんなに執着を見せたのは初めて」
「もう思わせぶりな態度は止めてやれよ?」
「うん。もう用はないから、これからはバッサリいくつもり」
「ワァ。やっぱ女子って怖いんやなぁ」
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