スポット3. 打出公園




 あの図書館の、ちょうど裏側にあたる位置になるのでしょうか。

 南へしばらく進んでから角をまがったその場には、公園がしずかに広がっているのでした。


 その入り口には、『打出公園』という表示とともに、

『おさる公園』という文字と、猿の親子のシルエットが描かれています。


 公園のなかを覗いてみれば、そこには確かに。

 ジャングルジムにスプリング遊具。いたるところに、おさるの姿があしらわれているのでした。




――― いやいや、もう少しばかり前は、この公園には、ほんまに、お猿が住んどりましてな。


 あなたの隣で公園のさまを眺めている老紳士は、懐かしむようにつぶやきました。




――― ほれ、あのあたり。ちょうどさっきの建物が見える、その前に、大きなおりがありましてな。


――― 南の国から贈られてきた猿たちが、ここで飼われておったんですわ。


――― 猿だけやのうて、に、いんに。じゃくまで飼われておったこともありました。




――― せやけど、まあ。生き物のさだめですかいな。獣も鳥も、だんだん姿を消していって、最後の猿がおらんようになったあとは。


――― あの場所に、からになった檻だけが四角う建っておったもんですが、それもとうとうお役御免となりまして。


――― この場がまるごと、改装されて、いまはあの遊具の猿らが出迎えてくれますのや。




 そう言いながら、老紳士はまたステッキを。その大きなにぎりをゆらりと振っておりました。


 その振られる先についつい目を向けると。

 いつの間に、そこに現れたのでしょう。


 高さ五メートルほどの、まるで動物園のような檻が、そこにぼんやり浮かんでいました。


 いかめしげなそのたたずまいを、からかうように。

 檻の外にも、上にも、踊る、はねる、きゃっきゃと歌う。

 色とりどりの猿の群れ。




 歌にはさらに、いんたちの歌がかさなり。

 踊りには、栗鼠たちのはねる様がくわわって。

 ばさり、ばさりと、瑠璃色をした孔雀たちの、巨大な扇のような尾羽をふるう舞いがそれらをいろどる。


 彩るといえば、公園にしげる草木もすっかりと様がわりして。

 目をくようなあざやかな緑。赤に、青に、紫の花。

 お猿たちのふるさとの台湾の森でしょうか。それとも鸚哥や孔雀たちをはぐくんだインドの密林もりが、ここに現れたのでしょうか。




――― きぃ。




 お猿の声に我にかえってみたならば、あの老紳士はまたしてもステッキゆらして、緑の通りを南へまがる頃ではありませんか。


 ふり返れば、お猿たち、鳥たちはもう、いずこかどこかへ去っていて。


 すこし茫然としながら、あなたはまた歩き出したのでした。



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