スポット2. 市立図書館 打出分室




 ごつごつした石をかさねて形づくられたその身体につたをまとった武骨な姿。

 それでもあちこちに口をひらいた窓や戸口は、古風で優雅なうつくしさをそこに覗のぞかせています。

 まるで西洋のふるいお城、その一部を四角く切り取り、日本のここにそっと貼りつけでもしたような、不思議なながめがそこにあります。


 ガラス張りの現代的な建物とつなぎ合わされ、一体となった、さらに不可思議なその有り様に、あなたはついつい見入りました。




 建物の前にいくつかかかげられている三つの看板。

 ひとつを老紳士のステッキが指ししめしました。


『芦屋市立図書館 打出分室』と、そこには書かれておりました。






――― どうですかいな。

――― すこし変わっとりますが、このやかた、よう見てみたらなかなかべっぴんとちがいますか。




――― もともとは、なにのほうに建っとった、その ――― 銀行でしたかいな。


――― イタリア・ルネッサンス風、とか、ルスティカ風とか。恥ずかしながら、私にはようわからんのですが。


――― すこし昔にこちらに住んではっただいじんが、お屋敷のなかに移し替えられたんですわ。




 そう説明してくれる紳士がステッキを振るうごとに。

 まるでそれに誘われるように、多くの人が図書館へと行き来し、出入りしてきます。




 この建物にふさわしく、昭和のかおりの紳士服、シックなドレスに、和服を着こなす人物も多く歩いているのでした。

 石の館のかつての記憶が呼び起こされでもしたかのように、ある人物は灰色に、ある人物はセピア色、けたような有様で、ふわりふわりと行ってはもどり、踊るように……。




――― こぉぉーん。




 不意に、かわいた木を打つような音が、ゆらめく空気をつんざいて。


 見渡せば、あの人影らはどこへやら。影もかたちもなく消え失せて。

 古城のような石の館が、そのたたずまいを見せているだけ。




 あわてて通りに戻ってみると。

 やはりステッキをゆらりゆらりとたずさえて、あの老紳士が南のほうへと歩いてゆきます。


 その歩みにさそわれるように、あなたもまた、緑にぬられた道を歩いてゆくのでした。


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