スポット1. 打出天神社前




 白くかがやく鳥居の前には、石柱がたっていました。


『打出天神社』




 まわりの地面からぽっこりと浮かんだような土台にひろがる境内です。

 開放的でありながら、下の世界とへだたったような、ふしぎな空間。


 石段の上、白い鳥居のむこうには、菅原道真すがわらのみちざね公をまつる場としてそこらかしこに梅の木が。

 参道の右手をみると、そこには奇妙なモニュメント。

 赤いかげ石でつくられた、それは大きな打出の小槌。

 ゆさゆさ回して願いをかければ、かつてこの地に海の龍神がもたらしたという神宝のごとく、望むものをもたらしてくれるとか。




 少しばかり夢まぼろしにひたっていた、そんな心地をふり払おうと、門前の道路へと目を向けたとき。

 一人の男が、じっとこちらを見ているのに気がつきました。






 石段の下、こちらを見ていたその男は、黒光りするようなスーツをまとった老紳士。

 いささかレトロなソフト帽をかぶりこなしたその手には、これまた古風に木製のステッキをたずさえていて。

 頭の部分が妙に大きくものものしいステッキを右手で道路につきたてたその老人は。

 意外に親しげな笑みをうかべて、あなたへ話しかけてきました。




――― ああ、こらこれは失礼いたしました。


――― このあたりの方とちがうとお見受けしましたに、ご丁寧な物腰でお宮をご覧になってはったんがなっていらしたのが、すこし気になりましてなあ。


――― どちらからいらしました。ほお、それはそれは。


――― どないですかな、この町は。いまだに静かで落ち着いて、なかなかええ所ですやろ。


――― たとえば、ほら、あちらなんかは如何です?




 そう言って老紳士がステッキゆらして示した先には。

 神社の南西、道をはさんですぐ向こう。

 そこには奇妙な建物が、四角い体をそびえさせているのです。


――― すこし、御紹介しましょうか。


 そう言って、まるでファンタジー映画の魔法使いであるかのように。

 老紳士がステッキを振ると。


 道のむこうの光景がゆらりと震えて。

 まるで命がやどりでもしたかのように、生き生きとしたかがやきを帯びているのでした。


 そのかがやきに誘われるように、あなたは歩きだしていました。


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