第18話 中酷企業のリスク(前)

 経済安全保障担当大臣・お江は、マスゴミや野党が前政権の闇金問題で敵対する党の足元を掬うのに躍起になっている隙をついて着実に経済安全保障版のセキュリティ・クリアランス制度を可決・公布させた。内外からの障害を乗り越えた経緯は、生前のお江の生き様に似ていた。スタートを切ったばかりだが器があっての料理。有識者会議を開催し、政令案・運用基準案などを策定し、修正しながら閣議決定まで本格的な運用に向けて突っ走るだけだ。

 お花畑なのかお気楽なのか、鍛錬・修練して取得した物を安易に流出し、被害を被るお人よしに楔を打ち込む。


家康「セキュリティ・クリアランスは順調のようだな」

お江「お陰様で。情報漏洩や不正取引には罰則を課しまする。今までが手緩う御座い

   ましたからな」

家康「そうであったな」

お江「サイバー攻撃やサプライチェーン上の脅威など機微な情報を同志国と共有し、

   対策していきます。人を見れば泥棒と思え、です。これにより、民間事業者も

   参加する国際共同研究が増えていくことでしょう。それには機密の厳守を徹底

   していく所存です」

秀吉「今までが手緩かったわ」

行長「それにより、海外の政府調達へ参加できる道が開け、経済的に潤いまし」


 財務大臣の小西行長は今後の財政の発展に希望を抱いていた。各大臣の役割は、前政権とは多少異なり、簡素化され、横との繋がりが重視されていた。よって、防衛費なども歳入歳出と捉えられ、財務大臣である行長がそろばんを弾いていた。


お江「民生と軍事の両目的に使用できるテクノロジー、または民間企業の技術の中で

   防衛用途に活用できる先進技術。軍民両用(技術)、デュアルユース・テクノ

   ロジー分野での民間事業者同士の取引が可能になり、日本経済の成長が期待で

   きまする」

行長「願ったり叶ったり」

光秀「というのは表向きの内容だ。実際に大きな役割を果たすのは、同志国と情報を

   共有し、スパイの摘発・防止を行い、国の安全と国際的信頼を築くものだ」

秀吉「信長どの様にならぬためか」

光秀「ご冗談を」

お江「はいはい。今の時代は、個人情報やビックデータなどの重要な情報がクラウド

   に格納されており、データセンターの需要が高まっております」


 お江が参加して、聞きなれない異国語が乱立するが、転生した者たちの脳内ではそれらの単語の意味が簡易ではあるが説明され、吸収されていた。過去と現代に師匠の内容にと与えられた才能だった。外務大臣になった島津義弘が口を開いた。


義弘「懸念されるのは中酷。中酷企業による日本国内のデータセンター建設投資の大

   幅な拡大は許しがたき惨状。注目すべきは中酷テンセントやアリババクラウド

   が三か所目のデータセンタを開設する方針と聞き及んでおります。さらに中酷

   大手GDSがGaw Capitalと提携し、東京都内に大容量のデータセンターパーク

   クの稼働を予定している」

秀吉「情報が抜かれる。許しき事態ではないか」

お江「日本ではこのような施設が取り締まりもなく安易に設置されているのが現状。

   中酷の国家情報法や国防動員法の存在は、中酷企業のデータセンターを利用す

   ることによって情報流出、クラウドの意図的誤作動による社会的混乱、日本の

   サーバーの窃取・日本国内の競争力喪失が重大な懸念を齎すと存じます」

秀吉「何とか致せぬのか」

お江「現時点では、外為法の強化が望ましいかと」


 苦虫を潰したような表情をしていた本田忠勝が口を開いた。


忠勝「重要な事業を営む日本国内の企業には外為規制を設けている。国の安全の観点

   から兵器関連・重要インフラなどの指定業種を予め定めている。外国の投資家

   が上場会社の1%以上の取得、非上場の1株以上の取得には関係大臣への事前

   届を義務づけているがこれがいかにもでしてな。不純テレビは既に三割を超え

   てお咎めなしの状態」

秀吉「早速、取りつぶせぃ」

家康「そうはいかぬのがこれまた現状でしてな。しがらみとそれを見逃せと騒ぐ議員

   や企業・団体がおりましてな。問題はその輩たちを始末せねば解決しませぬ」

秀吉「つべこべ言わず取りつぶせ、国家の安全が保てぬではないか」

家康「法治国家ですぞ。そのためにお江が尽力してくれているのです」

秀吉「うぐ…」

お江「国の安全を損なう恐れがある場合、投資内容の変更や中止命令を行うとなって

   おりますが曖昧過ぎて効力はないかと存じます」

忠勝「それには抜け道が御座いましてな。一定の要件を満たせば事前届が免除される

   と何とも玉虫色の落とし穴が用意されております」


 幹事長になった伊達政宗が口を挟んだ。


政宗「可笑しな輩が賄賂やハニートラップで馬鹿な輩を引き込み法に穴を開けまくっ

   ているのが現状ですな」

秀吉「謀反者を許してよくこの国は存在しておるな」


 黒田官兵衛渉外大臣は厳しい顔で首を縦に振っていた。


お江「データ保管サービス、暗号化処理サービス、サイバーセキュリティサービスを

   提供する場合、遠隔でシステム操作を伴う場合、外為法のコア業種に該当さ

   せ、抜け道である事前届け出対象から除外する方針です。関係各位の垣根を取

   っ払いスムーズに処理する必要性があると動く所存です」

官兵衛「外為法の所轄は他ではないか。それは拙い。一本化しなければ笊だ」

光秀「一本化しなければ、情報は生きませぬぞ」

家康「情報には表の顔と裏の顔が御座いますからな。しかと見極めなければな」 

秀吉「外為法の制度の認知・厳守を各部署に徹底させよ」

お江「届け出や報告漏れの洗い出しと防止を図るように命じて下され」

秀吉「もし、違反が見つかれば行政指導による警告・罰則を与えよ。容赦なく」

家康「抜け穴を作らぬことですな」

お江「その通りで御座います」

官兵衛「日本国の制度では特定の企業や特定の国を名指しする形になっておりませ

    ぬ。これは配慮の行き過ぎと存じます。曖昧は油断に繋がります。刃を持っ

    てNOを突きつけなければ相手にも通じませぬわ。ここはやるかやられるか

    で御座いますぞ。この時代、ネットを制する者が世界を制す。ネットを疎か

    にまたは曖昧に考えていては大怪我を致しまする。そうだ、光秀殿あれをご

    披露くだされ」


 黒田官兵衛渉外大臣に指名され、国務大臣・明智光秀はある懸念を報告した。






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