第14話 信長、逝く

 奈良県で諸事情で知事が退任し、補選選挙が行われることになった。侍日本党からも候補者を立てていた。奈良県出身の大和筒井城主・大和郡山城主として、織田信長・豊臣秀吉に臣従した戦国時代の大名・武将である筒井順慶だった。教科書は物語にならないでいたからか前知事の地盤を受け継いだ現奈良副知事に苦戦していた。


徳川幹事長

 「奈良知事選に苦戦しておるな。筒井順慶は総理・副総理にゆかりのある者。ご出

 馬頂くか」


 徳川幹事長が思案している中、扉がノックされた。現れたのは明智国務大臣だった。


徳川幹事長

 「如何致された、明智国務大臣」

明智国務大臣

 「総理・副総理にゆかりのある者が窮地に追い込まれていると耳にして、居ても立

 っても居られず馳せ参じました」

徳川幹事長

 「丁度、如何したものか思案して、大御所にご出馬願おうかと」

明智国務大臣

 「そうでしたか。では話は早い。私も同意。是非、総理にご出馬を」

徳川幹事長

 「だが、総理は国際博覧会の打ち合わせに多忙でな」

明智国務大臣

 「私でよければ資料さへ頂ければ代行でお引き受け致します」

徳川幹事長

 「そうか。明智殿なら任せて余りなし。是非、お願い致す」


 徳川幹事長は事情を織田総理に伝えると、明智が代行するならと快く了承した。総理の行動は野党にも悟られるのは時間の問題だった。


 川上徹と言う青年がいた。彼の母は、糖逸教団に多額の寄付金を行っていた。彼の父が重病を患い追い込まれた彼の母は糖逸教団に入信した。看病だけの毎日。他人とも一切会話のない孤独さを糖逸教団は救ってくれた。自分の存在価値を失っていた母は居場所を見つけた思いだった。糖逸教団の者の関心を引こうと身の程を考えず多額の寄付金にギャンブル依存症のように狂っていた。徹の言うことは全く効かないばかりか自分の生き甲斐を邪魔する者として扱うようになっていた。優しい母を狂わせたを糖逸教団を許せなかった。徹の家の資産はどん底どころか借金さへ増える有様。徹の怒り、憎しみは教団トップの文李鮮に向けられた。文李鮮の周辺には同じようなトラブルが続出していた。危険を感じた文李鮮は教団施設から一歩も出なかった。徹はその事実を噂レベルで入手し絶望感に襲われていた。そんな徹にある男が接触してきた。自分と同じ教団からの被害を受けた者だと言う者だった。その男の事を詳しくは知らなかった。知る必要がなかった。怒りと憎悪の共有、それだけでよかった。目標を失った徹にその男は、手を出せない相手より、手の出せる相手を匂わせた。その男は教壇に協力しなければ者が居なければ騙されなかったと著名人の罪を涙ながら訴えた。徹の矛先は協力者に移行した。徹はネットで調べ、銃を作成していた。試し打ちも幾度か行った。

 徹に接触してきたのは、強酸党の工作員だった。中酷に従わず脅しにも屈しない織田総理政府を敵視していた。工作員は、徹に如何に織田総理が教団のために働いてかを説いて見せた。情報弱者となり孤独になっていた徹はその工作員にいいように操られていた。徹の憎悪は目標を得た獣のように織田総理に向かっていた。彼の生き甲斐は織田総理を倒すことに塗り固められていた。


 織田総理は、筒井順慶の応援に奈良県に入った。重要人物とあって警備は厳重に敷かれていた。街頭演説は民衆との触れ合いの場でもあった。暴漢の危険と背中合わせであるのは変わりない。演説を取り囲むように民衆がいた。防犯上、道路を挟んだ場所だった。一人の男がそっと近づき鞄から手作りの銃を取り出し、織田総理に向け、二発発砲した。警備の者は直ぐに犯人を取り押さえた。


 「総理、総理、お気を確かに」


 織田総理は銃弾に倒れた。ヘリで運ばれたが緊急手術の甲斐もなく二度目の他界となった。侍日本党の衝撃は計り知れなかった。国政は、悲しみに暮れる時間を与えない。侍日本党の定めによって豊臣秀吉副総理が総理に就任した。


 織田総理暗殺には疑問が多く残った。警備の不備よりも狙われた原因や弾道の違和感が取り沙汰された。徹が放った弾が死因ではなかった。致命傷となった傷口と徹の発射した軌道や角度に一致が見られなかった。真相は工作員の用意したスナイパーによるものだった。少なくとも三人が織田総理を狙っていた。その内の一人が発射した銃弾が原因だった。徹は携帯を持たされていた。通話の状態で引き金を引く際、「打つ」と囁いていた。その声を合図として撃たれた物だった。徹の放った弾は織田総理の背後のビルの壁で見つかっていた。真相は闇の深さと早期解決の名の元に隠蔽されていた。

 侍日本党に悲しみに暮れている時間はなかった。徳川幹事長は自分の選択を悔いていた。その気持ちは明智国務大臣も同じだった。自分の選択が織田総理の命を奪った後悔は拭えないでいた。誰よりも先に病棟に駆けつけたのは徳川幹事長と明智国務大臣だった。二人は、人目を憚らず「織田総理」と大声で叫んでいた。その二人の脳内に声が響いた。


 「儂は先に戻ることになったようじゃ。後を頼んだぞ。そなたらもいつ戻されるか分からぬ。思いを残さぬようお気張りなさいませ、わははははは」


 徳川幹事長と明智国務大臣は顔を見合わせていた。


徳川幹事長

 「戻った記憶ではそなたが織田殿を殺めたことになっておろう。奇しくも今回も関

 わるとは、因縁、か」

明智国務大臣

 「面目ない。歴史ではそうなっておるが…」

徳川幹事長

 「よいよい、過去の事よ。各言う私も茶会に呼ばれたのは信長殿よる暗殺が目的で

 あったのではとの噂話を聞いたことがる。真実・事実は当事者のみ知る事ぞ、と

 な。歴史の大筋は変わらないと言うことか」

明智国務大臣

 「では、私も…」

徳川幹事長

 「そうでしたな、わははははは」

明智国務大臣

 「笑い事ではありませんぞ」

徳川幹事長

 「わはははははは」 


 








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