第12話 暴言がトリガーとなる開戦もある

 台湾の瀬成徳総統が動き始めた。民主主義国から多くの祝辞が届く中、面白くないのが台湾を抱え込みたい中酷だった。瀬成徳は中酷に計らい中酷との関係を荒立てることなく現状維持を訴えるが、民主主義国が歓迎する人物であることが意味していることを考えれば、中酷の怯えは計り知れない。外国人を見ればスパイと思えと言わんばかりに外国企業を追い出して経済危機を招き、不動産が、富裕層や利権者の特権の温床と化したのを憂いて締め付けた結果、不動産バブルを弾けさせ、その実態を明るみにしたため、人民の消費を冷え込ませた。秀欣平の存在意義に残されたのは台湾の完全な取り込みだ。台湾には名立たる半導体の企業がある。米国を中心に半導体業界からデカップリングが進められる中、是が非でも成し遂げなければならない案件となっていた。捻じれ国会を成し遂げたが総統選に敗れた。喜ぶ民主主義国、苦虫を潰す中酷。その苛立ちと怒りは配下の日本の親中議員に向けられた。


呉中酷大使

 「何と不甲斐ない。我らに歯向かう瀬成徳に祝辞を行うなど言語道断。貴様らは何

 をやっているんだ!公然と台湾独立勢に加担させるとは怒り以外にない」

里山三汽夫元首相

 「メディアが日本政府に忖度する関係の中で、国民にも中酷脅威論、台湾有事との

 言葉が大変浸透してしまっている」

社眠党・徳島美津穂

 「日本の軍拡路線を変え、まさに戦争準備でなく平和の構築に切り替えることがで

 きるよう、力を合わせていきたい」 

呉中酷大使

 「米国会議で我が国を戦略的な挑戦を行う国と言い放った織田総理に大変失望し

 た。我が国の隷属国として生きずして日本の生きる道なしを浸透させられない貴様

 らは無能でしかない恥を知れ」

里山三汽夫元首相・社眠党・徳島美津穂

 「…」


 座談会と称して呼びつけられた野党の三十人にも上る親中議員は顔面蒼白で肩身を狭くし、尻尾を尻の下に巻き込んで怯えていた。大使館を出て場所を変えて国際メディアの席で会談の様子を伝える場が設けられた。そこには呉中酷大使の睨みを効かせた中、しょぼんとする里山三汽夫元首相・社眠党・徳島美津穂ら親中議員がいた。会場には中酷のメディアと一部の国際メディアがいたが中酷の息の掛かったメディアである事には変わりなかった。

 教師に怒られ反省する生徒のように下を向く親中議員が印象的な様子だった。優位に振舞った呉中酷大使が隙を見せていた。会場の警備が薄かったことだ。隷属する議員を前にアドレナリンが上がった呉中酷大使は、暴言を吐いた。


呉中酷大使

 「これ以上台湾を応援し、中酷に逆らうのであれば、日本の民衆は火の中に陥れて

 やる、覚悟しろ」


 その時、会場の扉がパカーンと開けられた。静まり返ったお通夜のような会場にライトが照らされた。呉中酷大使からは逆光の中、数人の人物と多くのカメラが向けられているのが分かった。呉中酷大使は里山三汽夫元首相・社眠党・徳島美津穂を見て「何事だ」と目線を向けるが親中議員は首を激しく左右に振るだけだった。まぶしいライトの中、一人の人物が近づいてきた。


伊達政宗外務大臣

 「やあやあ、そなたが売る喧嘩、この政宗が買ってやるわ」


 そう政宗が啖呵を切ったのを皮切りに政宗が連れてきた各国のメディアが流れ込んできた。


伊達政宗外務大臣

 「ここにいるのは国際的メディアの者どもである。そなたの日本の民衆を日の中に

 陥れるはここにいる者全ても聞きよったわ。言い逃れは出来ぬぞ。そなたの発言は

 日本への宣誓布告に値する。それは秀欣平の意志と捉えてよいな」

呉中酷大使

 「いや…、それより断りもなく立ち入るのは無礼だろう、さっさと出ていけ」

伊達政宗外務大臣

 「大使の発言は主席の発言。相違ないな。相違があるならば、身勝手な発言や行動

 は祖国への重大な裏切り行為ぞ。立ち去るのはそなたの方である」


 呉中酷大使は苦虫を潰すような顔と鋭い視線を政宗に向けていた。


伊達政宗外務大臣

 「訂正はしないと言う事だな、ならば、覚悟せ。異国のメディアの者ども聞いたで

 あろう。日本を火の海にすると呉中酷大使の言葉を。呉中酷大使の言葉は中酷の大

 将・秀欣平の言葉と受け取った。中酷は日本に戦争を仕掛けてきた。日本はこの不

 条理な行いを見逃すわけにはいかぬ。我が国の国民を焼き尽くすわ卑劣な行為。同

 盟国に直ちに日本は中酷に戦争を仕掛けられた。臨戦態勢に入る。そう世界に伝え

 てよ」


 呉中酷大使は政宗の発言と各メディアの反応に焦りを隠せないでいた。


呉中酷大使

 「いや、ちょちょと待って頂きたい。戦争など一言も言っていない」

伊達政宗外務大臣

 「そなたの国では自国民が焼き払われるのを戦争とは言わないのか、言語道断」

呉中酷大使

 「そんなことは言っていない」

伊達政宗外務大臣

 「メディアの者。そなたらは確かに聞いたな」


 各国メディアは「聞いた聞いた確かに聞いた」との声と共にフラッシュがけたたましくたかれた。呉中酷大使は事の重大さに気づいて会場を逃げ出した。


 各メディアは中酷が日本を挑発、日本に宣戦布告の情報として拡散した。事の重大さを考え、秀欣平は愛国心からの暴言であり我が国の意向とは異なる。呉中酷大使はその任務を説き、日本には冷静な対応を求めるとの訂正を発表した。それ以来、呉中酷大使の姿を見ることはなかった。米国・英国・フランスは精鋭軍を日本海に向かわせると発表。中酷は「冷静な対応を」を繰り返すのみだった。中酷国内では、ここで引いたのでは日本に屈したことになると言う意見と戦争を仕掛けた国と世界に認知されれば、大きなダメージを追うという意見が交差していた。

 秀欣平は事態を治めるため、呉中酷大使を粛清したことを公にし、事態の鎮静化に勤しんでいた。









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