第2話 師匠 


「とりあえず、シュバルツバルツを出て、

             師匠に会いに行く。」

フィルは地図を指さしながら話す。

ウンウン

アイルは相槌を打ちながら、朝食を平らげる。

「師匠がいる場所はエーレブルー東部テトラ村。このゴブの森の北東にある村だ。             

そこで匿ってもらおう。」

アイルは心配そうに聞いた。

「そのエーレブルーはどういう国なの?」

「エーレブルーとシュバルツバルツは長い間対立関係だが、あくまで王族間の話だ

 商人や移民は国境で自由に行き来できる。」


\

マジックアイテム(透明パッチ)

効果:パッチをつけている者に透明化の付与を与える。予め指定したもののみ視認

   可能。攻撃を受けると割れてしまう。


「旅人には必須級アイテム。とりあえずシュバルツバルツに出るまではこれを使え。」

アイルは頷き、パッチを装着した。


ゴブの森林を抜けると、荒廃した村

「アセルレード」がある。

かつてある転生者がこの村を守り、侵略する魔物を軒並み退けた英雄であった。

彼の寿命が尽きた後、それを待っていたかのように魔物が押し寄せ、ついには村を乗っ取られてしまった。アセルレードはマラエル海に面さないため、国自体も興味が薄れ、忘れ去られていた。


「つまり、目を盗んで脱出するにはうってつけって訳。」


「透明パッチがあれば、素通りできるってことか、頭良いね!フィル」


アセルレードの街道を歩きながら、二人は会話を楽しんでいた。


「あのさ、フィル、」


アイルは視線を落としながら呟いた。

「ん?」フィルは首を傾げた。


「助けてくれたのに、こんなことを聞くのは野暮だと思うんだけど。。。

 どうして僕を助けてくれたんだ?僕が君の得になるから?」


アイルはそのことがずっと疑問だった。この世界に来て優しく手を取ってくれたのは

フィルだけだった。


「そーだな、確かに人は損得で動くのが常だ。それが生きる上でも合理的な考え方

 だと思う。でもな。親切心とか愛情とかって、それとは真逆じゃないか?

 アイルを助けようとした時、俺は後先考えなかったし、損得なんてもっぱら眼中に

 なかったぜ?ただ、あの場で助けたかっただけだ、気にすんな。」


それを聞いたアイルは泣きじゃくっていた。

「おいおい、そんなに泣くなって、こっちも泣いちまうだろうが。」

いつの間にか打ち解けた二人はアセルレードを抜け、国境へと到達した。


(マラエル海)

貿易に際しての最も重要な海。シュバルツバルツ東方面が面しており、王都の次に発展している水の都がある。フィル達が進む西方面には大国エーレブルーとの国境がある。


「国境閉鎖?なんでだよ」

フィルが問いただすと守衛が答えた。


「今、国からのお達しが来ていてな。なんでも転生者様が誘拐されたそうで。

 王族はエーレブルーの連中の仕業と睨んどるらしいわな。すまんが通す訳に      

 いかん。」


アイルが小声で呟いた。

「透明パッチを使って通り抜ければ?」

「透明パッチはただの魔法アイテム。国境にいる優秀な守衛には見破られちまう

 んだよ」


「お困りのよーね。誘拐者さん」

そこには今年の転生者の一人、マリが立っていた。

「マリ様一体それはどういう意味でございましょう。」


「言葉の通りよ、そこのやつが私達のを盗んだのよ」


その言葉を聞いた瞬間、フィルは怒りに満ちた表情で口を開いた。

「仲間?あんな仕打ちをしておいてよくそんな都合の良いセリフを吐けるな」


マリは小馬鹿にした表情で言い返した。

「極悪人が逆上だなんて聞いて呆れるわ。才能のない奴は異世界には必要性がな

 いの。だからせめてサンドバッグになって居場所を与えてやったのにね。」

アイルは恐怖心からか、その場に立ち尽くしている。

「守衛、取り囲め!」

数にして5人ほど。数こそ少ないが凄腕揃い。勝機はない。

「残念だがこれを使うしかないか。」


マジックアイテム:契約の笛

効果:半径10km以内に契約者がいた場合、呼び出せる笛。一回使うと壊れてしまう


ぴぃぃぃぃぃぃ!!!!!!!!!!!!!!


「こんな状況のときに笛を吹くなんて愚かね。   契約者の笛は戦争中などで味方と連携を取るためのものなのよ?」

しかし、フィルは笑っていた。

「ここは国境の近くってこと、忘れたのかい?」

さぁぁぁぁ。。。。。。。。。。。。。。

先ほどまで良好だった視界がぼやけ始める。

(。。。霧?)


(探求のパラドックス)

物事を探求するとして、その物事を知っていればそもそも探求する必要が生じない。逆に、その物事を知らなければ探求することもできない。


「まったく大勢で僕の弟子をいじめないでおくれよ。」


マリは不意をつかれたことを感じ、後ろに振り向いた。

霧の中から現れたのは高身長の銀髪の男。

シャーロックホームズが着ていそうな探偵服。

「エーレブルーの新鋭組織、パラドクスの一人。   探究ね。」

「いかにも。」

「私の邪魔をしていいのかしら?」

「それは脅しのつもりだろうが、僕には通用しないよ。二人はもうすでに国境を抜けているからね。」

マリは咄嗟に振り向くと、そこには二人の姿はなかった。

「追っても無駄だよ。二人の事はに頼ん  

である。」

「ふーん、どうやら勝った気でいるみたいだけど、これは二国間の条約違反。大きな被害を被ることになるわよ、探究」

「理解できてないなぁ。シュバルツバルツの連中は理解力がないのかい?」

「どうして?」

「この物事を知られなければ条約違反になんてならないんだよ。

 証拠のないものは探究できないからねぇ。」




























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アナザーコレクト 卜部朔巳 @urabesakumi

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