アナザーコレクト

卜部朔巳

第1話 選ばれた者へ

トランペットの音が城中に響き渡る。


「この国の宝、転生者様の歓迎の儀をこれより執り行う!!」


うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!


王様の宣言とともに城の入り口に集まった国民が歓声をあげた。


それを横目に見ていた旅人フィルは朝食のパンを片手に持ちながら店主に尋ねた。


「帝国シュバルツバルツは転生者が人気だとは聞いていましたがまさかこれほどとは・・・


 転生者はそんなに凄いもんなんでしょうか?」


店主はそのセリフに聞き捨てならない様子で答えた。


「あんちゃん、転生者様を甘く見てんな?この国の軍事力の大半を担う彼らはまさに国の宝なのさ。


 10年前、魔族の襲撃があったときこの国を救ってくれたのも転生者様なんだぜ。国に入るときに


 でかい像があっただろ?あれは俺たちの親父が転生者様を讃えるために作ったもんなんだぜ・・」


そのあとも店主の転生者に関する話は続いた。フィルは朝食を片付けながら話を聞き流していた。




「まあ、旅の土産に見てくか」


フィルは好奇心旺盛な性格だった。新聞を買い、民衆にあやかって城の中へ入っていった。


「今年は3人か、不作の年だな」傍聴席で新聞を広げながら呟いた。


「おい、不作とはなんだ不作とは?」隣からガヤが飛んできた。怖い。




まもなくして王様が壇上に上がった。


「それでは転生者の紹介を執り行うぞよ。」


一人目が壇上に上がった。やせ型の黒髪の男。別に強そうじゃないけどな。


うおぉぉぉぉ!国民の歓声が城を包み込む。


「紹介しよう。一人目の転生者、セキグチカナトくんぞよ」


すると、セキグチが突然話し始めた。


「国民共!俺に任せとけ、チートの力を使って魔王を倒し、必ずやこの国を救ってやるぜ!」


キャーーー!女子の歓声が増す。


すると、横から凄い速度で蹴りが飛んできた。セキグチを蹴飛ばし、大柄な男が喋り始めた。


「俺の名前ケンマヨウイチ、俺がこの世界の勇者だ!!」


王様は慌てふためきながら、


「ケンマ殿、もう少し仲良くしてほしいぞよが。。」


「あぁわりぃな。カナトが格好つけてたからちょっとイラっときた。」


まぁ、分からなくもないとフィルは思った。


「全く二人共の気持ちは分かりますがもっと冷静になられては?」


舞台袖から杖を持った女がでてきた。


「マリ、お前も俺をイライラさせんのか?あぁん?」


「国民の理解を得る必要があるんでしょ?ストレス発散にサンドバック貰ったんだから今は我慢よ」


国民の先ほどとは対照的な視線に怖気づいたのか、ケンマを大人しくなった。


「と、とにかく、このよ、三人の素質は確かなものと儂が保証するぞよ。」


動揺しながらも王様がなんとかフォローし、閉幕した。




宿でフィルは今日のことに違和感を覚え、考え事をしていた。


(王様が言ってた言葉、言い直してなかったか?)


悩みに悩んだ結果、フィルは城に忍び込むことを決めた。


\


マジックアイテム(ドトン巻物)


効果:巻物を咥えているとき、隠密状態、つまり透明になれる。


\


城の警備は手薄だった。特別な日ともあってか、正門のパレードやらの警備で忙しいのか。


「ったく、なんで城下町に出ちゃいけねーんだよ。」


セキグチの声だ。屋根裏に隠れ、フィンは耳を傾ける。


「ちょっとはハーレムさせてくれてもいいだろー?」


「セキグチ、また蹴られてーのか?」


「ケンマ、冗談だって、蹴るならあっちにしろよ。」


あっち?フィンがセキグチの指さす方向をみるとそこには。。。


「んんん!」フィンは絶句した。そこには手足が鎖につながれ、口輪をつけられた少年が悶えていた。


18の俺と同じくらいか、許せない。。


コロン・・咥えていた巻物が屋根裏から地面に落ちた。


「誰かいるのか?」


「展開、薄力玉」


次の瞬間、部屋中に白い粉が飛散する。


\


マジックアイテム(薄力玉)


効果:「展開」ということが発動条件。周りに薄力粉を飛散させ、視界を遮る。


\


フィンは少年を運び、一目散に闇の中に消えていった。


「ゴホゴホ、なんだよ。」


「セキグチ、サンドバックが消えてるぞ。」


「なんだよ、ったくせっかく不良品を使えるようにしてやったのに。」


「面倒だし、死んだことにしようぜ、あいつは選ばれなかった転生者だったんだから。」


すると、部屋に誰かが入ってきた。


「あんたたち、バカなの?」マリだ。


「んだよ、まだエリート気取ってんのか?」セキグチは腹を立てながら言った。


「あのサンドバック、一応は転生者でしょ。攫われたのがバレたら転生者の格が落ちるじゃない。」


「でも、どうしろって」


マリは不気味な笑いをしながら言った。


「こんなこともあろうかと手錠に捜索サーチをかけといて良かったわ」




暗闇を駆け抜け、森に入る。


「はぁはぁ、、、」


洞窟に転がり込む。ここは国の外れにある「ゴブの森林」


小洞窟が多く、金のない旅人がこの地形を利用して野営する。


携帯キッドを取り出し野営に取り掛かる。宿を借りていたが、今の状況を鑑みるに国の外にいるほうが安全だと考えた、路銀が、、ちくしょう。


少年は気絶したままだ。よっぽどひどい仕打ちを受けたのか、体のあちこちに痣や切り傷が目立つ。


とりあえず手当をして一息ついた。




冷静になって考えるとまずい。この少年はおそらく転生者。


シュバルツバルツは転生者の誘拐を国家転覆罪とみなし、俺を殺しに来る。


悪いビジョンを想起するにつれ、自分が行ったことへの強い嫌悪が渦巻く。




「...」


少年が目覚めた。


「??…!」


目覚めと同時に強い警戒心を向けられる。いや、すぐ逃げ出さないあたり、恐怖心かもしれない。


フィルは口を開いた。


「お目覚めかい?安心しろ、俺は敵じゃねーよ。」


「・・嘘だ、信じるか」


「あーそう、一応あの部屋から助け出したの俺なんだが。」


「・・・」


視線を焚火に向ける。少しの沈黙の後、口を開いた。


「信じられない、転生したなんて、くそっ、」


(自暴自棄になり始めてるな、こりゃ。)フィルは呆れながら言った。


「運命てのは、時に残酷ものだよな。でも受け入れるしか道はねーぜ。」


少年はそれから沈黙だった。きっと頭の中を整理するのに時間が必要なのだろう。


「俺は旅人のフィル、お前と会う運命にあった男だ。」


自分の言うことに少しの恥ずかしさを覚えながらそういった。


すると、少年は泣き出しながら抱きついてきた。


きっと、転生初期から拒絶され、誰も彼の手を引いてくれなかったのだろう。


これが俺が転生者アイルと初めて出会った出来事だ。

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