第13話 鬼子姫神の誕生秘話と地磁場現象の発生原因。

 剛は目が覚めた。

 白い天井と光る照明が眩しい。部屋には調度品はなく広さも造りも病室のようだった。

 

 

 

「気がついたのかい?」




 そこには机に向かった英子がいた。

 視線は目の前のコンピュータ画面に釘付けだった。

 

 

 

「ここはどこです?」




「ここはアタシたちの研究所さ。そして場所はここ、湖水見こすみ市内」




「湖水見?」




 そんな話は聞いたことがなかった。

 もちろん剛が湖水見に戻ってきたのは十年振りだ。

 しかし咲姫とともに気武装隊きぶそうたいとも戦ってきたのだから相手の情報はそれなりに持っている。

 だが湖水見に気象庁の施設があるなど一度も耳にしなかった。

 

 

 

「極秘施設だからね。表向きは閉鎖されたことになってンだ」




 だから気武装隊の隊員たちでも、ここの存在は知らない者も多いと英子はいう。

 

 

 

「オレはどうなったんです? そして咲姫と希美は?」




 すると英子は立ち上がる。

 そして手招きをした。ついて来いという意味らしい。

 剛はすでに自分の身体の異変を感じていた。いくら呼びかけても咲姫が返答しないからだ。

 

 

 

 部屋を出ると通路の床が濡れていることに気がついた。

 周りを見るとこの廊下は洞窟のようだった。天井と壁は岩むき出しで、それを頭上を通る太いパイプから吊られた照明がほの暗く照らしていたからだ。

 先を歩く英子、そして続く剛の靴音がカツカツと反響する。

 

 

 

「地下なんですか」




「そうだよ。ついでにいうとここは湖の真下さ」




 なるほど、と剛は思った。

 湖水見には数年前にできた大きな人工湖がある。それは丘の上に建つ湖水見高校よりも更に高い位置にある水力発電を行うダムだ。

 

 

 

「確かに発電も一応してンだ。でも、はっきり言ってそっちはダミーだ」




 だから存在を秘匿できているのだろう。

 やがて英子は通路の奥まで来ると、そこにある分厚い扉を開いた。 

 そのギイッとした音が空間に響いて吸い込まれる。この先に広い空間があるのだ。

 英子に続いて剛もその空間に足を踏み入れる。

 

 

 

「うっ」




 剛は思わず呻いた。

 その広さに驚いたのだ。

 

 

 

 そこはまるでドーム球場の内部のような構造をしていた。ただし高さも広さもその倍以上は軽くある。

 そして材質は岩石だった。

 照明に照らされた岩の表面がてらりと青黒く光る。ここは驚いたことに天然の空間だった。

 

 

 

「地下の大空洞さ。覚えてないのかい? まるで初めて見たような顔してンね」




 先頭を歩く英子が振り返った。

 だが剛にはこんな場所の記憶はない。

 

 

 

「まあ、いいさ。そのうち思い出すンだろうよ」




「あ、あれは?」




 行く手とは異なる方角に剛は見覚えのある機影を認めた。

 極光であった。

 今は整備中らしく搭乗員や整備員たちが忙しそうに立ち回っている姿が見える。

 

 

 

「丁度いい秘密格納庫だろ? 

 どんなに爆音たてても外にはわからないからね。ここをうまく利用しているって訳だ」

 

 

 

 カツカツとした英子のハイヒールの音が再び響く。

 

 

 

 □ □

 

 


 それからも英子はいくつもの扉を開けて先へと進む。

 やがて通路は真っ白な天井と壁になる。そして独特の臭いが鼻についた。

 

 

 

「病院みたいだ」




 その臭いは消毒薬のものだった。

 

 

 

「その通りさ。だけど一般患者はひとりもいないンだけどね」




 やがて英子は角を曲がり、階段を登る。そして突き当たりまで到達すると、そこで足を止めた。

 

 

 

「見な」




 英子が指さすそこにはガラス窓があった。

 はめ殺しの分厚いガラス越しに、半地下になっている部屋が見下ろせた。

 

 

 

「なっ、なにをしているんだ?」




 窓から下を見下ろした剛が強い口調で問う。

 

 

 

 そこには希美の姿があった。

 腰ほどの高さの広い寝台の上にガウン姿で寝かされていたのだ。 

 麻酔を使用されたらしく意識はない。

 口にあてがわれた透明な酸素マスクが呼吸の度に曇るのがわかる。

 

 

 

 そしてその周りには五人ほどの白衣姿がある。

 だが彼らは医師というよりも周囲にある電極が多数伸びている周囲の装置からして科学者にしか見えなかった。

 

 

 

「手術さ」




 英子がさらりと言う。

 

 

 

「驚くことないよ。別に切ったり縫ったりする訳じゃないンだし。

 それにおめえさんもさっきまでこうしてたンだから」

 

 

 

 剛は思わず自分の身体をさする。確かに痛みも傷跡もない。

 だが違和感はある。

 

 

 

「いったいオレになにをしたんです? それに手術ってなんです?」




「もうわかってンだろ。鬼神を取り出すのさ」




 やはり思った通りだった。

 と言うことは剛の予想通り、今この身体には咲姫はいないのだ。

 

 

 

「取り出してどうする?」




 剛は英子に強い視線を向けた。

 だが英子はまったく動じない。

 

 

 

「鬼神が取り憑いたってのは病気なんだよ。お前さんは病気の治療はしないのかい?」




 カチンと来た。

 

 

 

「咲姫は病気なんかじゃないっ。ちゃんとした人格を持つひとりの少女だ」 




「ふーん。そこまで言うなら、ちょっと付き合っておくれ」 




 英子が施設の廊下の更なる先を指さした。

 

 

 

「……それにしても、不思議なのはお前さんの身体からだだ」




「なんのことです?」




 剛はぶすっとした口調で問い返す。

 

 

 

「鬼神の器として成長し過ぎている。

 無理したら鬼神を二つ、いや、三つくらい入りそうな感じなンだよ」

 

 

 

「……鬼神を三つ? どういう意味ですか?」




 英子はその問いには答えず、ただ肩を竦ませるだけであった。

 

 

 

その後長い通路をいくつも経過した。

屈強な警備員たちがガードする扉を幾度も超えた。それまで英子はなにもしゃべらなかった。

そして剛も終始無言であった。




「民間人がここまで入るのはお前さんが初めてだ」




 そして声紋、指紋、虹彩などの生体認証などをこなした英子が、最後の扉の前でそう告げた。

 

 

 

「ああそうそう。今更だけど引き返すなら今しかないンだよ。どうする?」




「この扉の向こうに咲姫がいるんですか」




「そうさ。異世界から来た化けモンはみんなここに納められているンだ」




「入ります」




 短いが強い口調で剛はそう告げた。

 その言葉に頷くと英子は重い扉をグッと開けた。

 地磁場対策が施された超硬質セラミック製のそれがギギギと鈍い音を立てる。

 するとひんやりとした温度湿度をしっかり管理された空気が溢れてこちらに流れてきた。

 

 

 

「こ、これは……」




 その光景を見た剛は思わず言葉が詰まる。

 部屋はそれほど広くない。高校の教室程度の広さだ。

 だが壁面すべてはタッチパネルのモニタになっていて、電子回路の回路図のような複雑な配線が多数あり、その経路の途中途中で赤や青のランプが点滅を繰り返している。

 

 

 

 後ろ手で扉を閉めた英子は手近にあったキーボードを引き寄せると、なにやら操作を始める。

 すると電気モーターが唸る音が響き、天井と床板の一部が開き百貨店の正面ガラス扉ほどもある巨大なガラス板が部屋の上下から何枚もせり出した。 

 そのガラス板は完全に透明なので幾重に重なってもその向こう側が透けて見えている。

 

 

 

「な、なんだっ……?」




 尋ねる剛の声は乾いていた。

 イヤな予感がして喉の粘膜が張り付いたようになっていたからだ。

 

 

 

「鬼神を閉じ込めた水槽みたいなもンだ。

 もっとも中に入ってンのは良質の電解液なンだがね。

 お前さんが見たいって言ったンだ。飽きるまで見てていい」

 

 

 

「水槽……?」




 剛は歩を進めた。

 そして手近なガラス板に近づいた。

 

 

 

 英子が言う水槽とやらは背丈以上あることから表面積はとても大きいのだが、ほとんど厚みはなかった。

 厚さは五ミリあるかないか。

 そして目をこらすとその厚さの中でアメーバ状の薄い膜が伸びたり縮んだりを繰り返してる。

 

 

 

「これが、……鬼神?」




 よく見ると伸縮には一定の法則があった。

 まるで心臓の鼓動のようだと剛は思った。

 

 

 

「そうさ。鬼神ってのは、身体の厚みは見た通りあってないようなもンだ。

 そして重さもない。計測してみたが熱量もないンだ。ついでに言えば呼吸もしてない。栄養素も摂取していない。だから排泄物もない」

 

 

 

「それじゃ生き物とは……」




「そう、生き物とは言えないンだ。だがね、こいつらは間違いなく生きてンだ」




 剛は次の水槽に近づいた。

 そこでもアメーバの伸縮は確認できる。

 

 

 

「こいつら鬼神はエネルギー生命体だとアタシは思ってンだ」




「エ、エネルギー生命体っ?」




「そう。いちばんこれに近くて身近なモンは荷電粒子。つまり電気さ」




「……で、電気なんですか?」




「細かく言うとちょっと違うんだが、そう思って間違いはないンだ。

 こいつらは電子回路のような存在に取り憑いて生きる寄生虫みたいなもンだと思えばいい。

 だが、生き物らしく好き嫌いがはっきりしていて人間がいちばん好みなンだよ。

 お前さんも人間の身体が電気回路のようになってンだってことくらいは知ってるだろ?」

 

 

 

「脳から電気信号が出てるとか、筋肉に電気を流すと動くとか……」




「よくわかってんじゃねえか。その通りだよ。

 で、自分がいちばん居心地がいい人間を見つけては、それに寄生する」

 

 

 

「それって宿主のことですか?」




「そうさ。お前さんに鬼子姫神が取り憑いていたのは、お前さんの身体の構造が好みだったってのがいちばんの理由さ」




 そこまで言うと英子は機器に近づきなにか操作する。

 するといくつもの水槽が明るく明滅を始めた。

 

 

 

「な、なんです?」




「喜んでいるのさ。

 ちょいと電圧を上げるとヤツらは反応する。

 こいつらは今は眠ってるンだ。眠りの中で人間と同化して大暴れしてる夢でも見てンだろうよ」

 

 

 

「夢? 夢を見るんですか?」




「たぶんね。

 ……実はアタシたちにもわかってない方が多いンだ。なぜヤツが乱れた地磁場で活性化するンだとか。

 ……これは、ヤツらが住んでいた異世界の状態ってのがわかってるだけだ。

 次にヤツらはなぜ個体として様々な外観や能力を身に付けているのか?」

 

 

 

「外観や能力?」




「ああ、例えば鬼子姫神だ。

 あれはなぜ少女の身体を持つのか、ってことだ。

 個体特有の信号パターンから、ある程度の予測はつくが結論が出ないンだ」

 

 

 

 頭がパンクしそうだった。

 エネルギー生命体、電子回路。複雑すぎて理解の外だった。

 

 

 

「あの。ひとつ質問してもいいですか?」




「なンだい?」




「あなたは鬼神を集めてなにをしようとしているのですか?」




「決まってンだろ。鬼神を倒すためさ」




「鬼神を倒す?」




「そうさ。地磁場現象が以前と比べて確実に増えてンだ。

 つまり鬼神もどんどん増えている。

 そしてここがいちばん肝心なンだが、鬼神に勝てるのは鬼神と同じ力を持つ鬼神だけなのさ」

 

 

 

「鬼神と同じ力? じゃあ、あのヘリはなんなんですか?」




 その姿が脳裏に浮かぶ。

 剛の前に二度も出現した気武装隊の新鋭ヘリだ。

 

 

 

「極光(オーロラ)のことかい? 

 あれこそ鬼神テクノロジーの結晶さ。セラミックニードル弾、消磁機イレイサー、すべて捕らえた鬼神の能力を参考に、ときには応用して開発してンだ。 

 だからあれも鬼神と同じ力を持つ鬼神と思っていいンだ」

 

 

 

 剛は改めて水槽を眺め回した。

 

 

 

 ここにある機材のすべては剛の理解を超えている。

 おそらくたぶん、ここにある装置は国家の最高技術の粋を集めた最新鋭のものが集まっているに違いない。

 そして生じているその費用も計り知れない。

 

 

 

 剛はそれを見て愕然となった。

 咲姫を相棒として街の治安を守っていたつもりだったのだが、今まで自分たちがしてきたことは児戯に過ぎないのだ。

 

 

 

 治安を守ると言うことはこれだけの設備、英子が極光オーロラと呼ぶ新鋭ヘリ、そして捕獲した鬼神たちの研究、そう言うものを扱える巨大組織だけがその資格を持つ。

 

 

 

 所詮、自分たちがしてきたことは無償ボランティアの範疇だったのだ。

 

 

 

 そのときだった。

 幾重にも重なっている水槽の奥に、ひときわ大きく明滅している物があるのに気がついたのだ。

 剛はそこにふらふらと向かった。

 まるで吸い寄せられるような感覚だった。

 

 

 

「こ、これは……。咲姫」




 その水槽はいちばん奥にあった。

 そしてそこには裸体で膝を抱えて蹲る少女の姿が発光していたのだ。

 

 

 

「ああ、そうさ。この姿にはアタシも驚いた。

 他の鬼神はみんなアメーバなンだからね。鬼子姫神は少女の形を保ってンだ」

 

 

 

 剛は顔を近づけた。間違いなく咲姫だった。

 だがかなり幼い姿をしていた。それは剛が初めて出会ったときの咲姫だった。

 

 

 

「咲姫……」



 

 湖水見市にダムができたのは、今から五年ほど前である。

 しかし湖水見の地名が示すとおり以前からここに湖はあった。

 

 

 

 それは小さな湖だったのだがダムとしての立地が適していたことで水資源と水力発電のために人工湖へと生まれ変わったのである。

 

 

 

「それもこれも理由は十年前にあるンだ」




 英子が剛にそう告げた。

 

 

 

「十年前。……あの爆発事故ですね」




 英子は頷く。

 

 

 

「……い、いったいあのときに、なにがあったんですか?」




 剛が強く問う。

 今まで知ることのできなかった秘密を知る人物と出会えたのだ。この機会は逃したくない。

 

 

 

「なんだ、おめえさん、憶えてねえのかい?」




「……あのときオレは六歳だった。

 ものすごい爆発で人が大勢死んだのと、オレと咲姫が同化した。それだけしか知らない」

 

 

 

「それだけ知ってれば十分だ。後は機密なンだよ」




「教えてください」




「ダメだね」




「だったら咲姫を返してくださいっ。オレにはその権利があるはずだ」




 剛としては咲姫を盗まれた代償として秘密を教えてもらうでも、おつりが来るくらいだと、感じている。

 だから語気が強くなる。

 だが、

 

 

 

「ダメだね。どっちもダメだ」




 英子は両腕を組んで仁王立ちである。

 しかし、そのとき思案が浮かび悪戯気な表情に変わった。

 

 

 

「……と、言いたいとこだが、お前さんも関係者ではあンのだから特別に教えてやってもいいかもな」




 そしてニヤリと笑う。

 これは英子に慈悲の心が芽生えたためではなかった。

 剛は鬼立咲姫と長年同化してきたのだ。

 もし咲姫が英子の自由にならない場合、この目の前の少年が役に立つかも知れないと考えたのだ。

 

 

 

 英子はこの鬼神たちを集めた室内の一角に剛を促した。

 そこには簡易ながらソファセットがあった。

 そして剛に席を勧める。

 

 

 

「……十年前の大爆発は、ある実験の失敗が原因だったンだよ」




「じ、実験……?」




「ああ、そうさ。

 そしてその実験の日に、お前さんのような子供たちも運悪く居合わせたってことだ」

 

 

 

「どういうことです? だってここは秘密基地なんでしょう?」




「ああ、確かにな。

 だが、その日は家族訪問日で、この基地に勤める所員たちの身内が見学にやって来たンだ。

 もちろん、ここが秘密基地ってのは内緒で表向きは気象庁の倉庫ってことで説明をしていた」

 

 

 

「そんな日に、なんで実験なんてしたんですか?」




 剛が問う。

 

 

 

「当初は延期する予定だったンだが日程や人員の手配の問題で仕方なかったンだ。

 それに最初はそれほど危険が伴うとは誰も考えなかった。

 ……このアタシもね。

 アタシはね、当時は大学生でバイトで参加していたンだ」

 

 

 

 英子は遠くを見つめるような視線でポツリポツリと昔話を始めた。

 室内にはときおり変圧器と思われる機器から発せられたブーンとした音だけが聞こえている。

 そして本題へと話が進んだ。

 

 

 

「実験は異世界への扉を開けることだったンだ。

 そのために選ばれたのが鬼立きりゅう咲姫さきだったって訳だ」

 

 

 

「さ、咲姫が実験に使われたのですか?」




 言いしれぬ不安。フツフツと湧き出す怒り。

 だが剛はそれを堪えた。

 話はまだ始まったばかりだからだ。

 

 

 

「ああ、だが鬼立咲姫ってのは人間じゃなかったンだ。

 タンパク質で作られたダミー体でね。

 ちょうど六歳くらいの女の子を形取ったもの、……つまり人形って訳なンだ。

 作ったのはアタシでね。あんまりかわいいから前の晩に風呂に入れて洗ってやったくらいだった」

 

 

 

「……咲姫が人形だって?」




「ああ、だが今にも動き出しそうなくらい見事な出来映えだったンだ。

 だからアタシは咲姫の生みの親だと思っている」

 

 

 

 初めて聞く話だった。

 すでに遠い過去のことで、うろ覚えだが当時、剛の目の前に現れた鬼立咲姫は人間の幼い少女としか記憶していない。

 

 

 

「そ、その人形の咲姫がどうして動いたり話したり出来たんですか?」




「決まってンだろ。鬼子姫神が取り憑いたからじゃねえか」




「なっ……!」




 それが鬼立咲姫の誕生秘話であった。

 当初この人形を設置したのは、各地で起こり始めていた地磁場の乱れが人体にどう影響を与えるかを調べるためであった。

 

 

 

 そこで人工的に不安定な地磁場を形成したところ、驚いたことに少女の身体がわずかに動いたのである。

 そこで実験チームは、それまでわずかだった電圧を上げるテストを行ったのだ。

 

 

 

 その結果、少女は目を開けた。

 まさに奇跡であった。タンパク質の固まりに過ぎない単なる人形に命が宿ったとしか考えられなかったからだ。

 

 

 

 だが、それが原因で異世界の扉が開いてしまったのだ。

 結果、ヤクシャたちが跋扈し鬼子姫神との戦いとなったからである。

 

 

 

 そして、その後に起きた謎の大爆発。

 その事故で大勢の人々の命が失われた。

 その中には当時この施設の研究者であった剛の両親や希美の両親も含まれている。 

 そして剛の両親や希美の両親こそが、その研究の中心人物であったことは薬師寺英子だけが知っていた。

 

 

 

「……だがね。

 その爆発で失われたと思われた鬼子姫神が、その後出没するようになった。

 だから誰かを宿主にしてンだってことはアタシにはすぐにわかった。

 でも……、それがお前さんだったとはねえ。なんとも皮肉な話だ」

 

 

 

 剛は無言であった。

 正直に言えばかなりショックだったからだ。

 

 

 

「で、実験は思わぬ展開となった訳だ」




「……思わぬ展開?」




「ああ、異世界の扉が開いちまったンだ。つまり……、地磁場現象が発生した訳だ」




「地磁場現象。……十年前の事故の原因は地磁場現象だったんですか?」




「そうさ。ただ規模が違った。

 なんせ大爆発が起きちまったンだからな。

 なにが原因だったかは、はっきりしない。

 だがね、アタシは鬼神たち一挙に集まってしまった結果、化学物質の反作用爆発のような効果が発生したンじゃないかと考えている」

 

 

 

「……」




 そこまで話すと英子は、立ち上がった。

 そして足を通路に向けた。つまり、話は終わったことを意味するのだと剛は思った。

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