第12話 一緒にいたい Part2

 ため息をつきながら意味もなく教室に戻る途中、後ろから誰かに抱きつかれた。あたしに抱きついてくるのなんて、学年全体でみてもひとりしかいない。

 「あすみん!ひとり?一緒に帰ろ」

 「はーちゃん」

 あたしを「あすみん」とあだ名で呼んでくる唯一の同級生、隣のC組の田中たなか音羽おとはちゃん。みんなから「はーちゃん」と呼ばれている。同じクラスだったのは中2だけなんだけど、廊下でもよく話しかけてくれるし、たまに一緒に帰ったりもするの。自由で人懐っこいはーちゃんは、出会った時から変わらない。

 「部活だったの?」

 「うん。はーちゃんは?」 

 「んー、英語の宿題出してなくて怒られてた」

 こういうところも相変わらず。

 「高1になってから話してないよねー、どう?新しいクラスは」

 「楽しいよ。園田先生もいい先生だし」

 「若い先生いいよね」

 C組の担任は、国語科の青山先生。50代の男性の先生なんだけど、身長が高くてスーツの着こなしも素敵だから「イケオジ」と人気が高い。園田先生から絶大な信頼を得ていて、分からないことがあるとすぐ青山先生に確認しに行ってる。

 「あすみん、最近あの子と仲いいよね。中村光莉ちゃん」

 「そう、だけど…」

 美桜ちゃんたちみたいに、何か言ってくるかもしれない。身構えていたけど、返ってきたのは意外な言葉だった。 


 「教室移動の時に見かけるけどさ。めちゃくちゃ楽しそうだよね」

 「…え?」

 「あれ、違かった?楽しくない?」

 部活のメンバーに言われてしまった内容、はーちゃんになら説明してもいいかも。「楽しそう」って言ってくれたはーちゃんの意見が聴きたかった。

 「すごく楽しいよ。でも…」

 あたしが話し終えると、すぐに答えてくれた。

 「あすみんは、光莉ちゃんと一緒にいたいんでしょ?」

 「うん」

 誰かと一緒にいたい。そんな気持ちに素直になったのは、いつぶりだろう。あたしは一緒にいたくても拒絶されたり、クラスで浮かないように色々な人と喋ったり。一緒にいた方がいいのか、いない方がいいのか。周りの顔色を伺うだけだった。

 「光莉ちゃんといると、無理して笑わないでもいいの。一緒にいられるのが嬉しくて、それで笑えてる気がする」

 これがあたしの素直な気持ちだった。なんで笑えるのか。どうして一緒にいられるのが嬉しいのか。理由なんて分からない。何を話したかも覚えていないくらいの些細なことを話して、休み時間も一緒に過ごせて。それだけのことなのに、それがすごく嬉しい。

 「それでいいんだよ。人の友達関係にごちゃごちゃ言ってくる人の意見なんか気にしない!あすみんが一緒にいたければ、一緒にいればいい。私は、あすみんと光莉ちゃんのこと応援する」

 「はーちゃん、ありがとうね」

 はーちゃんに相談できて味方になってくれたことで、やっと自分の気持ちに素直になれた。あたしは、光莉ちゃんと一緒にいたい。

 

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ダブルヒロイン 〜ハッピーエンドで笑って〜 穂波ふうな @th0323

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