第27話 成人の儀兼立太子の儀①
成人の儀兼立太子の儀の当日。
王宮内は朝から騒がしさを極めていた。
布、白粉、装飾品……侍女らがユクスを飾り立てていく。ユクスは控え室の鏡台に座らされて侍女に囲まれながら、終始微笑んでそれを受け入れていた。
サザナミはそんな様子を絵画の一部のような心持ちで眺める。
時間がかかるうえに着心地がよさそうとは言えない衣装を着込まされて、正直、面倒だなとしか思えない。周囲を警戒しつつも、あくびをしたい気持ちをなんとか噛み殺してユクスの仕立てが終わるのを待っていた。
「サザナミ!」
眼前でユクスがぱちんと両手をたたいた。
思考がとびかけていたサザナミは、はっとして詫びる。
「失礼しました」
「おまえ、興味がないのがありありと見て取れますよ」
「すみません」
頭を下げると、胡乱げに視線を寄越される。
「べつにおまえがこういうのに興味がないのはいまにはじまったことではないですし……で、私、どうですか?」
「ん? どうって言われましても……」
サザナミは失礼にならないようにさりげなくユクスの姿を上から下まで眺める。
ユクスは祭事に向けて、王家の正装を身に纏っていた。
首の詰まった白いシャツに合わせているのは、緑色の地に金色の刺繍が施された布。シャツは一見シンプルに見えるが、近づくとところどころ刺繍が刺されている。そしてシャツの袖や首元には、楕円形の装飾品が上品にあしらわれていた。
「きれいですよ。その、なんか袖についているジャラジャラしたやつとか、派手でいいんじゃないですか」
「ジャラジャラしたやつ……」
ユクスは大きな姿見で自分の姿を確認した。
袖から垂れている飾りのことを言ったつもりだが、ユクスにはいまいち伝わっていないようだった。ガラスではなさそうだが、光を反射して七色に輝いている装飾品が、ユクスの上品な瞳の色とよく合っていていいと思ったのだがーー
それ、と指さすと、ユクスは目をぱちくりさせた。
侍女たちのきつい視線を感じ、自分がまずいことを口にしたのかもしれないとようやく気づく。
「いや、あの、きれいですよ。でもべつにあなたはそんなに着飾らなくてもきれいですから」
「……おまえはそういう人でしたね」
ユクスの胡乱げな視線を感じ、やはり自分が間違ったことを言ったのだろうとサザナミは理解した。
――こんどミルダ夫人に服の褒め方を聞いておこう。
「褒める気があるのは伝わってきたのでいいとしましょう。みなさま、ご苦労さまでした」
ユクスの言葉を聞き、侍女たちは頭を下げて退出していった。
「さ、サザナミ。ここからは頼みましたよ」
「今日は俺だけではなく、団員が四方を警備しています。息苦しいかもしれませんが、ご容赦いただければと」
「とんでもない。頼もしいですよ、ありがとう」
ユクスはサザナミの肩に手を置くと、頬を擦り寄せた。かつてよく交わしていたアルバス流の挨拶で、深い意味なんてないはずなのに、ユクスに触れられた頬が熱を帯びたのを感じた。
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