01-28 夜のパレード

 3人でポップコーンを買った頃には、日が傾いて星空が見えていた。


「ああ、もうこんな時間なってたんだ……」

 雅稀はほのかにピンクがかった桜の花びらの形をしたポップコーンの箱を両手で持った状態で、何となく空を見上げる。


「やっぱ1日は早いよな」

 利哉は昼から食べたかった桜のポップコーンをむしゃむしゃ頬張る。

 今の季節に合った桜餅の味が日本に戻った気分にさせている。


「あっ、夜になると言うことは、パレードの時間だ!」

 一翔の声に雅稀と利哉はかじりついた。


「マジか! 行こうぜ!」

 雅稀は急にテンションを上げた。


「それなら、場所取りだね。着いてきて」

 一翔はこっちと右手で合図して、雅稀と利哉はそのまま彼の後ろを歩いた。



 一翔に案内されたところはアミューズメントエリアの西側にあるシューティングゲームで楽しめる建物の近くだ。

 北の方へ顔を向けると、昼過ぎに行ったアスレチック場が小さく見える。

 近くの時計台は間もなく19時になろうとしていた。


「もうすぐだよ」

 一翔はパレードを心待ちにしている。


「どんなもんなんか、気になるな!」

 雅稀は三角座りしてポップコーンを口に運ぶ。


 周りを見渡すと、目が緑に光る大勢の学生が集まってきた。

 日も沈んで暗くなっている故、GFP学院の制服としているグリフォンのワッペン付きの黒いローブはもちろん、顔つきや表情もはっきり見えない。

 ただ、虹彩だけがグリーントルマリン色の光を放っている。

 まるで季節外れのホタルが光りながら群れを作っているようで、美しい景色に魅了されている気持ちだ。


 ――GFPが虹彩の色を決める遺伝子の近くに挿入された――


 そんな事実は、もうどうでも良く感じてしまうくらいだった。



 19時になった。

 アミューズメントエリア南東の倉庫から大きな乗り物がぞろぞろ出始め、ゆっくり西側へ進んでいく。

 乗り物には数多くのLEDライトが装飾され、夜のアミューズメントエリアに光を灯す。

 雅稀たちが座っているところに乗り物は現れていないが、テンションの上がるロックミュージックが遠くから聞こえている。


「まるで今日の疲れが吹っ飛びそうだぜ!」

 利哉は聞こえてくる音楽に反応する。


「そういう系の音楽って好きなのか?」雅稀は利哉に尋ねると「ああ。ノリが良くて楽しい気持ちにさしてくれるからな!」と機嫌の良い返事が返ってきた。


「今日はロック系だけど、日によってジャズだったりオーケストラだったり、ブラスバンド系の音楽が流れるんだって」

 一翔は顔を右へ向ける。


 ぼんやりと明るい光がこちらに近づいている。

 それに伴って、音楽の音量も大きくなっている。


「あっ、来た!」

 一翔は右側を指す。

 

 雅稀と利哉は一斉に右へ顔を向ける。

 桜を思わせるピンクの装飾がこちらへ向かっている。


「すごい、大きいなあ」

 利哉はテーマパークへ行った過去を思い出しながら乗り物を眺める。


「おい、誰かが演技をしているぞ」

 雅稀は乗り物に乗っている人を指す。


 乗っている人はグリフォンと背景が黄色の刺繍が施された黒いローブを着ている。

 そこで、5色の光る玉を投げて華麗に演技している。


「あれはジャグリング。手品学科の学生って手品だけじゃなくて、サーカスの授業もあるんだった……」

 一翔は演技の腕前に感心する。


「そうなのか?」

 雅稀は目線だけ一翔に向ける。


「うん。僕の父さんがここの手品学科出身で、非魔術界ル=ヴァールでサーカス団に入っているから知っている」

「このパレードで演技を披露することで、手品やサーカスのスキルを習得していっているってことなんかな?」

「きっと」

 一翔は手品学科の学生の演技に夢中になる。

 雅稀も視線をパレードの通路へ戻して続きを楽しむ。


 次の乗り物に乗っている人は20枚くらいの大きめのトランプを切っている。

 その後、通路の両端に座っている人に向かってトランプを放り投げた。


 トランプは観客へ方向転換した直後、大道芸でよく使われるナイフに変身した。

 ナイフはパレードの電飾が反射して黄緑色に輝いている。


 雅稀を含め、ナイフが自身へ向かっていると感じている人は腕で身を守ろうとガードする。


 乗っている人はナイフと同じ数のトランプを懐から取り出し、扇子状に広げて左から右へゆっくり動かした。

 こちらへ襲いかかってくるナイフはパンと弾けた音を立て、クラッカーに使われる紙テープと紙吹雪に変わった。


 雅稀はびっくりして腕の下から顔を出すと、前腕に紙テープが数枚載っていた。

 この演技をした人は舞台でお辞儀をするような仕草をすると、拍手に見舞われた。



 パレードの最後の乗り物が雅稀たちの前を通過しようとした時、乗っている手品学科の学生は夜空の方へ右腕を挙げ、指を鳴らした。

 座っている人の手にリンゴが現れ、これまた大盛況。


「オレ、腹減ってたんだなー」

 利哉は嬉しそうにリンゴを丸かじりする。


 今夜のパレードはロックミュージックと共に、手品学科に在籍している学生の華麗な技に魅了された。


 乗り物は北の方へ移動し、雅稀たちの前から姿を消した。

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