01-27 魔力とオーラ
「今度こそ……!」
利哉は右手を握ったまま、少し乱暴にゴールボタンを押した。
「……3分3秒14……はあ、良い線まで来たけどなあ……」
タイムを見た彼はその場で座り込む。
程なくして、リベンジしに行った一翔がゴールした。
「2分1秒78! やっぱり魔術が鍵を握るんだよ!」
一翔は胸の前でガッツポーズをする。
その声を聞いた雅稀はベンチから立ち上がり「俺より良いタイムじゃん! やっぱすげぇよ、一翔!」と喜びと驚きの気持ちで褒める。
「これで、僕も3ビッツ獲得だね」
一翔はニコニコしながら銀色の箱から賞金を手にする。
「……2人とも良いよな、オレはまだ3分切ってないってのに……」
「お前の気持ちはわかるけど、一翔の話、ちゃんと聞いていたか?」
雅稀は先程まで読んでいた分厚い本を閉じて利哉に近寄る。
利哉は困った顔で何も返事せずに黙り込む。
「……やっぱりな。俺に勝ちたい気持ちで溢れかえって、一翔の話が頭から抜けてしまっていたんだな」
「何でわかったんだよ?」
「俺は相手のざっくりした人柄や考えていることが何となく読めるんだ」
利哉は思わず目を丸くした。
雅稀は利哉の驚く表情を目に焼きつけたところで言葉を続ける。
「俺に対抗心を燃やす利哉は負けず嫌い。俺も負けず嫌いだから一つのことしか考えられなくなる時があるんだ。だから、利哉もきっとそうだろうなと思ったって訳」
雅稀にドンピシャのことを言われた利哉はただ驚くことしかできなかった。
「じゃあ、自分の心に集中してみて。そしたら体中に不思議に力がみなぎると思うんだ」
一翔は利哉の心臓を指す。
利哉は冷静になって目を閉じ、言われた通りに精神を心臓に集中してみる。
利哉の周りに薄赤色のオーラが徐々に現れた。
雅稀は興奮した気持ちを抑えて、静かに利哉の様子を観察する。
「そう。これでもう1回チャレンジしてみて。今の状態なら3分なんて余裕で切るよ」
一翔は真剣な目つきで利哉を見つめると、彼は黙って頷き、そのままスタート地点へ徒歩で向かった。
「何か今のすごかったな……」
雅稀は悔しそうにしていた利哉を見違えていたような気持ちで彼を目で追う。
「雅稀もちょっとやってみて」
一翔に言われて心に精神を集中させる。
体中に今までに感じたことのない不思議な力を感じる。
「うん、良い感じ」
一翔は腕を組んで頷いた。
雅稀はゆっくり両手を胸の前で広げると、利哉とは違って淡い水色の炎が揺らめくようなオーラに包まれていた。
「これが体に秘めている魔力ってやつ。オーラの色は属性で決まってて、雅稀は水だから水色をしているけど、利哉は火だから赤色をしている。僕の場合、闇だから紫色になるよ」
「なるほど……この状態で戦ったり、訓練したりしたら強くなれるってことかな?」
「そうだと思う」
一翔は目をつぶって確信したような頷き方をした。
「へぇ……! 俺も今度そういう状態でやってみよう……!」
雅稀は体験したことのない不思議な力に感動した。
これから強くなることが楽しみになってきた!
「おーいっ! オレもやったぜーっ!」
利哉のタイムは2分36秒57だった。
「やったなあ!」
雅稀は胸の前に握り拳を作って喜びを分かち合う。
「カズのお陰だよ! ありがとうな!」
「きちんとアドバイスできて良かったよ」
一翔は嬉しそうに歯を見せる。
「三度目の正直だな」雅稀は半分弄る感覚で利哉に顔を近づけると「でも、今回のオレはマサを超えたぜ」とニヤリとした表情で雅稀に顔を近づき返した。
「ま、そん時の俺は魔力なんて使ってなかったけどな」
雅稀は目を大きく開いて両手を腰に当てる。
そのやり取りを見た一翔は笑いながら
「お互い良いライバルになりそうだね」
と口元を覆うように左手を近づけた。
「言ったなー! 今日はこれで良しとして、ポップコーンをみんなで食うぞーっ!」
利哉は報酬の銅貨を3枚鷲掴んで出口へダッシュした。
「待てって……!」
雅稀はとっさに体を出口に向けて小走りした。
一翔は満足そうな表情で雅稀の後を走った。
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