01-25 アスレチック場の水流フロア
「ここか……」
利哉はあまりの大きさの建物を目の当たりにして驚く。
アスレチック場の高さはそこまで高くないが、1階あたりの面積が大きい。
まるで忍者の屋敷を思わせる。
3人は早速アスレチック場に足を踏み入れると、入り口に看板が置かれていた。
「本日のミッション――水流フロアを3分以内にクリアせよ。賞金は3ビッツ……か」
一翔は魔術語で書かれた看板を読み上げる。
「じゃあ、もしクリアしたら、あのポップコーン食えるじゃん!」
利哉は一翔の声を聞いて瞬時に機嫌を取り戻した。
「普段はミッションクリアで1ビッツの賞金をもらえるけど、今日は月1のボーナスデーだって!」
一翔も目を輝かせた。
「そうか、こういうところでお金をもらえるのは助かるな!」
雅稀はやる気に満ちた表情を浮かべる。
入り口から奥へ進むと、右手に階段がある。水流フロアは1階だが、他のフロアはこの階段を使うそうだ。
雅稀たちはこのまま水流フロアに入ると、ウォータースライダーはもちろん、アクリルの巨大な水槽が合計で30ヶ所あり、水が張っているのが視界に入る。
これらの巨大な水槽が迷路を作り、水槽から上がれば壁があり、垂直に取っ手がいくつか取りつけられている。
ある場所ではジャンプ台が設けられ、向かいの離れたエリアへ跳んで移動する仕掛けもある。
「……これを3分以内ってまあまあ難易度高くないか?」
雅稀は目を細めて水流フロア全体をぼーっと見つめる。
「とりあえずやってみようよ」
一翔はフロアのゲートに置かれている貸し出しゴーグルを1つ取る。
雅稀はそれもそうだな、としぶしぶゴーグルをセットする。
「チャレンジするのは良いけど、この服装のままやるって言うのか?」
「魔法戦士はローブを着たまま試合をするから、同じ服装でないと練習の成果が出せないよ」
ローブを両手で軽く引っ張る利哉に一翔は説得するように言う。
「そっか。じゃあ、スタート地点に行こう!」
利哉はゴーグルを手にしてウォータースライダーの頂上へ体の向きを変えた。
ウォータースライダーの頂上がスタート地点で、右手に赤色のボタンがある。押せばタイムが計られる。
「1回目はどんなもんか試してみるか」
先頭にいる雅稀はボタンを押してスライダーの中へ入った。
子どもの頃、よく遊んでいたウォータースライダーは1、2分程その中をひたすら滑った記憶があるが、アスレチック場のものは僅か5秒くらいで水槽の中へ出た。
完全に水の中で、進行方向の向かいから遅めの水流を感じる。
(しまった……頭から入るべきだったか……)
雅稀はそう思ったが、とりあえず逆流に負けまいと平泳ぎで5メートル先の突き当たりまで泳ぐ。
突き当たりで顔を上げると、水槽の蓋がなく、一旦そこから上がった。
普段通りの速さで歩くと、3本に伸びた通路があり、分岐点に立て札がある。
「左は初心者、真ん中は中級者、右は上級者コースか……」
雅稀は駆け足で左へ曲がる。
再び水槽と対面し、そのまま足を突っ込んだ。
今度は2メートルの深さがあり、雅稀の身長では体がすっぽり水に浸かってしまう。
水深1メートルのところでカエル泳ぎをする。
角を右へ進むと、少し下りになっていた。
水流に身を任せるかのように下っていくと、網が見え、そこに頭から着地した。
その時に雅稀は軽く頭を打ってしまい、右手でその部分を押さえる。
通路に従って進むと、さっきまでの水槽より大きなものがドンと置かれていた。
1つの水槽に見えるが、中央に2メートルの仕切りが入っている。
この水槽は深さ3メートルで、潜って仕切りを通過して向かい側へ行く設計になっている。
「これ、ある程度泳げないと溺れてしまうだろうな……」
雅稀はジャンプして水槽の中へ潜る。
手でかきながら深いところへ進んで行く。
底付近まで来たことを確認してから、仕切りに体をぶつけないように注意を払いながら通過する。
鼻から思い切り息を吐きながら水面から顔を出す。
荒い呼吸をしながら水槽から上がると、今度はジャンプ台が置かれていた。
ここからジャンプして向かい側へ行けなかったら、ゲームオーバーだ。
たとえ辿り着けず落ちてしまっても、床に置かれているセーフティマットが助けてくれる。
とは言え、タイムは3分をオーバーしてしまっても構わないからゴールしたいというのが雅稀の本音だ。
ジャンプ台から向かいの通路まで5メートルある。
泳ぎ疲れて乱れている呼吸を整え、ジャンプ台へ向かって助走をつけた。
雅稀はタイミングを見計らい、ここだ! と思ったところで軽く跳んだ。
両足がジャンプ台に触れた瞬間、勢いよくジャンプ台を踏み潰すような大きな音を立てて、向かいへ辿り着くべく跳び上がる。
雅稀の足は向かいの通路に敷かれているマットへ着地した。
(良かった……ギリギリのところで着地したか……)
安堵するのも束の間、彼の目の前には初級者コースの最後の砦が立ちはだかっていた。
「嘘だろ……」
取っ手が5メートルの壁に等間隔で取り付けられ、その上から水が滝の如く流れている。
そこを登った先にゴールのボタンが置かれているのが見えた。
ここまで来ればやるしかない。雅稀はそう思いながら取っ手を握った。
滝に打たれながら、壁をゆっくり登る。
ここでノロノロしていると、体力が奪われるのもタイムに影響するのも彼の中ではわかっているが、力を振り絞れずにいる。
「……よいしょっ……」
雅稀はやっとの思いでゴールのボタンを押すと、その場でぐったり倒れ、ぼんやりした目つきでタイムボードを見た。
気になるタイムは4分21秒36だった。
「はは……全然ダメじゃねえか……」
雅稀は苦笑いしながら立ち上がり、近くのベンチに腰を下ろして利哉と一翔を待った。
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