01-18 全知全能が生み出した世界

 さっきまでいた試合会場がドナデュウの小部屋の中に変わっていた。試合会場にいた時から少し時間が経ったあとの世界に移動したのだろう。


 ドナデュウは椅子から立ち上がり、近くにあるベッドへ仰向けに寝転がる。試合後の回復魔術で跡形もなく怪我が治っている。


『この俺が、所詮魔術が使えない非魔術界ル=ヴァール出身の学生に負けちまうなんてよ……それに、俺は全知全能インフィニティ属性を体得しているってことをもっとあいつに見せつけるべきだったな』

 独り言をぼやいたドナデュウは何か思いついたかのように上半身を起こし、独り言を続けた。


『いや、そもそも俺のプライドに傷を付けたのが悪いんだ。それ以前に、非魔術界ル=ヴァールの人間に魔術を教えるか? 大した知恵なんてないくせに……気に入らない。あんな教育機関、そこへ集う輩は滅んでしまえばいいのに……』

 ドナデュウは魔術でベッドから体を宙に浮かせ、出窓から外へ出た。


 彼はそのまま身を任せるかのような姿勢で上空へ向かった。


 この様子を見ていた雅稀たちも水晶玉の導きで彼の後を追った。



 彼が向かった先は2つの宇宙空間が見える漆黒の空間だった。


『俺はヘヴンソウル大学の中で1番強い。しかし、何故かGFP学院に通う奴ら全員を打ち負かすことはできない。そんな現実を受け入れてたまるか』

 ドナデュウは両手を真下に向かって広げた。

 顔つきから何かを念じているのがわかるくらい、力が入っている。

 次第に虹彩の色が青から赤に変わった。赤色の虹彩は怪しく光っている。


『俺は若くして全知全能インフィニティ属性を体得したんだ。現実とは真逆の世界を創ることだって可能なんだ! いつの日か、GFP学院にいる輩を抹殺して非魔術界ル=ヴァールの人間に魔術を使わせなくしてやる……!』

 低く冷酷な声で言い放った後、彼は目を閉じて術に集中し始めた。


 雅稀らが時空移動水晶ヘリクラン・クリスタルの世界に入った時は薄青と薄緑の宇宙空間しかなかったが、青色の球からは赤色の球が、緑色の球からは黄色の球が細胞のように分裂して誕生するのが見える。


 ドナデュウは完全に分裂が終わったのを見届けると、無表情で赤色の空間へ飛び込み、再び闘技場へと侵入する。


 そこはドナデュウとモールが戦った直後の表彰式が行われていた。


 実際の結果とは真逆でドナデュウが勝利したのか、優勝の証であるバンドをはめている光景がドナデュウの目に焼きつく。


『実際に、学生大会の優勝バンドを手にしている……! 所詮非魔術界ル=ヴァールで生まれ育った人間なんかにいつまでも負けていられるか! だから、現実の世界である現実世界ベスマールとは真逆の世界、つまり反転世界ピューマールで俺が活躍している様子を観察して、GFP学院生を滅ぼし、勝つんだ!』

 ドナデュウの目は赤い虹彩を誰かに見せつけるかの如く見開いていた。



「……あいつのプライドが高いのはよくわかったけど、全知全能インフィニティ属性であることを良いことに魔術を悪用したのかな……」

 雅稀は親指と人差し指でL字を作った右手を顎に当てる。


反転世界ピューマールを創ったのが悪いってこと?」

 利哉は腕組みして首をかしげる。


「元々反転世界ピューマールが存在していなかったのは知っての通り。新たに宇宙空間を創るということは、本来あるべき秩序が乱され得るということだよ」

 一翔の言葉に雅稀はまさかと言わんばかりの驚いた表情で

「秩序が乱れるって、反転世界ピューマールにいる人が現実世界ベスマールを支配してしまうとか!?」

 と訊く。


「可能性としてはね。480年前から今日こんにちまでそんなことが起こらなかったのが奇跡と言っても過言ではないと思う」

「でも、いつ反転世界ピューマールの人が現実世界ベスマールを襲ってきてもおかしくないという訳か」

 利哉は一翔の話を聞いて少し納得した。


「とりあえず、反転世界ピューマールが誕生したのはドナデュウの魔術だったのはわかった。でも、フォール=グリフィンが結成されたのは、そしてGFPが組み込まれたのはいつだろう?」

 冷静な表情を浮かべる一翔の声には怒りが籠もっていた。

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