01-17 480年前の学生大会決勝戦

『只今より、学部生男子の部、学生大会の決勝戦を始めます! ヘヴンソウル大学3年、ローレンツ・ドナデュウVSグリフォンパーツ学院大学3年、バルア・モール!』


 白いローブの襟元と袖口が藍色と混ざったような紫色をしているローレンツ・ドナデュウがリングに登場する。金髪で肌が白く、青色の虹彩を持っている。地球で言うヨーロッパ人の男性のようだ。


 彼の次に、左胸にグリフォンのワッペンが縫いつけられている黒いローブを着たバルア・モールが現れた。襟元と袖口は紫ではなく濃い青色をしている。髪の毛は赤みがかった黒色で虹彩の色は茶色をしている。


 階級はローレンツ・ドナデュウの方が上なのは一目瞭然だ。


『始め!』

 司会者の声にローブを羽織った観客は大きな歓声を上げる。


 カーンと試合開始のベルの音が会場を響かせる。



 歓声が響く中、両者は右腕をまっすぐ伸ばし、手を広げる。手からダイアモンドが装飾された剣が現れる。


 始めに襲いかかったのはドナデュウだった。剣の刃先に白金色の稲妻をバチバチと走らせ、モールの首元を狙って剣を振る。

 モールはヒルトを両手で握り、真紅の炎をまとった剣身ボディで攻撃をガードする。


『この技は俺が編み出した白金放電ディスチャージだ! 誰にも止められやしない!』

 ドナデュウは自信満々の顔をして両手に力を入れる。


白金放電ディスチャージってナンセンスだな。もう少しかっこいい名前をつけてあげなよ』

 モールは薄笑いした後、即座に目の色を変えて火力を上げる。

 モールの剣身ボディから放つ巨大な炎の渦がドナデュウの剣を巻き込む。


 紅色の炎からところどころ稲妻が音を立てながら光っているのが見える。大接戦と言ったところだろうか。


『よくも俺の技を侮辱したな! 後悔するがいい!』

 ドナデュウは眉間にしわを寄せて剣に念力を込める。


 稲妻は紅の炎の勢いに負けまいと光の強度を増す。

 瞬く間に稲妻が炎の渦と同化し、渦全体が激しい光を放つ。


『チッ……』

 モールは舌打ちし、ドナデュウの技を跳ね返すべく必死で剣を振り払おうとする。


『どうだ、お前が出した炎の渦は稲妻と化した。まともに食らってしまえば、感電するぜ』

 口元をにやりとするドナデュウに対して、モールも同じ表情をして『さあ、それはどうかな』と少し低い声で応える。


炎天熱風ハリケーンヒート!』


 モールは技名を力強く口にする。


 彼のブレイドから乾燥した熱風が凄まじい勢いで吹き出した。

 会場の客席まで熱風が吹き荒れ、体が持って行かれそうな様子が窺える。


 炎と混ざった稲妻の渦がモールの剣身ボディから徐々に離れ、ドナデュウの剣身ボディへ押し寄せる。


『今だ!』

 モールの冷静な声と同時に真横に剣を振った。


 炎全体に轟く稲妻の渦は乾燥した熱風に乗ってドナデュウの顔面に直撃し、彼は仰向けに倒れた。



 10秒程して、ドナデュウは体を震わせながら上半身を起こす。

 そこには、目を細めて睨みつけるモールが彼を見下ろしていた。


『貴様、先程はよくも……』

『よくも何も、これは勝負だからな。遠慮はしない』

 さっきの技で感電したのか、いびつな面をするドナデュウの目前にはモールの切先ポイントが鋭く光っている。


 ドナデュウは後方へバク転して立ち上がった。


『ふっ、そうか。まあ、優勝の座はこの俺様がいただく。所詮魔術が使えない奴に、そして階級が俺よりも低い奴に負ける訳にはいかんからな』

 ドナデュウは口元の右端を吊り上げてわらう。


『威勢が良いなあ。面白いぜ。けどよ、ここまで来た以上は俺だって勝ちたいんだ』

 モールは剣を相手がいる方向へ構え、若干口角を上げる。


 モールが握る剣身ボディから青い炎が静かに燃え始めた。

 ドナデュウは何だと言わんばかりに口をへの字に曲げ、青い炎を見つめる。


『これは俺が編み出した技だ。そもそも青い炎って見たことあるか?』

 モールの質問にドナデュウは答えられず、そのまま剣を構え突っ立っている。


『素直じゃない奴だな。さっきの威勢は何だったんだ?』

『……うるさい。こんなもの、見たことありゃ黙ってねぇよ』

 ドナデュウは何か嫌な予感がしているのか、冷静になっている。


『ガスバーナー、と言ってもわからないだろうが、その青い炎と一緒だ。ガスバーナーって、赤い炎より青い炎の方が温度が高いんだぜ』

『それって何かを燃やす道具なのか?』

『まあな。燃やすってより、物を温めるのに使うことが多いかな』

『ふっ……そんな道具に頼らないと物を燃やせないんだろ』

 ドナデュウは不気味な笑みを見せる。


『……つまらない話はここまでだ。非魔術界ル=ヴァールで伊達に生活していなかったことを教えてやる!』

 剣身ボディの青い炎は静かに大きさを増し、次第に孔雀のような形が形成されていく。


 青い炎でできた孔雀は切先ポイントへゆっくり移動した後に宙へ浮き、大きな鳴き声を会場に響かせる。


蒼炎朱雀そうえんすざく!』


 モールは剣をドナデュウの方向へ振り下ろすと、青き炎の孔雀はハヤブサの如く凄まじいスピードで彼の方向に一直線で進む。


『うっ……』

 ドナデュウはしかめっ面をし、左手に切先ポイントを添える。

 剣身ボディから滝のように水が吹き出し、孔雀に直撃する。


 炎の勢いが止まるかと思いきや、かえって滝の水が熱気を伴う水蒸気へ蒸発していくのが目に見えた。


 あれ、あいつ、光属性じゃなかったのか? とモールは浮かない顔をしたが、攻撃することに集中する。


『何故消えないんだ?』

 ドナデュウの声から焦りの気持ちが漏れる。


 視線を孔雀からモールの方へ変えると、彼は左腕を孔雀の方にピンと伸ばし、手を広げていた。


『しまった……波動系の技も入っていたのか……』

 ドナデュウは悔しそうに孔雀と睨めっこをするが、目を逸らしていたうちに孔雀の炎の勢いが増していた。


 青い孔雀はドナデュウの顔面を覆うように通過し、空中に舞った後、燃え尽きるように消滅した。



『顔が……ヒリヒリする……』

 ドナデュウは左手を顔面に当て、その場で膝をつく。


『当たり前だ。青い炎は1773Kケルビン、高いところは2073Kケルビンと高温だ。よくわかっただろ』

 モールは腕を組む。声色と態度から怒りがにじみ出ているのが感じられる。


 ドナデュウは何も言い返せないままうずくまる。


『……ガラ空きだ』

 モールは剣身ボディに真紅の炎をまとい、ドナデュウの背中に向かって斜めに剣を振り下ろす。

 真紅の炎はブーメランのような形に変化し、僅か1秒程で狙った部位に傷を入れた。


『あうっ……』

 鈍い声でドナデュウは右手から剣が離れ、大の字にうつ伏せに倒れる。

 顔面は青い孔雀のせいで赤く腫れ、背中にはブーメランで傷を負う。まさに泣きっ面に蜂状態のドナデュウはその場で両腕を震わせる。


 モールは目を細めてドナデュウに近づき、

『君は魔術師の中でも強い方だと風の噂で聞いていたが、俺が思っていた程でもなかったようだな』

 と低めの声で語りかける。


 ドナデュウは顔面と背中の痛みを堪え、黙って右手を広げ、転がっている大型の剣を魔術で引き寄せて立ち上がる。


 すると、空から大きな雷がモールを襲い、今度は彼が苦しむ。


 ドナデュウは無言で剣から水色の稲妻をバチバチと鳴らせ、モールの左脚の太ももを勢いよく斬りつける。

 それと同時に稲妻が水に変化し、斬りつけた太ももから水が流入する。


 どれだけダメージを受けているかは、モールの叫び声を聞かなくても想像できる。


『さっきはよくも言ってくれたな。今度は貴様が痛い目に遭うがいい!』

 ドナデュウは憎悪の気持ちを込めて剣を強く握りしめる。

 彼の瞳孔はぎゅっと収縮していた。



 この状況が30秒程続いた後、空からモールを狙って落ち続けていた雷が止み、患部から流入し続けた水流も止まった。


 ドナデュウはモールが仰向けに倒れる様子を確認し、彼から5メートル程度距離をとる。


 もう勝負がついたかと思ったのも束の間、仰向けに倒れているモールが手にしている剣の切先ポイントから赤色の光線レーザーが伸び、ドナデュウの両目を襲う。


 その後、モールは怪我をしている背中に狙いを定めて剣を投げた。

 剣は回転しながら華麗な双曲線を描き、ドナデュウの背中に命中する。ブレイドからえんじ色の炎が現れ、切り傷に加えて火傷を負わせた。


 彼の白いローブは背中を中心に血で赤に染め、気絶しているかのように動かず、うつ伏せに倒れる。


『たとえ階級が1段階低かったとしても、紫階級ヴィオルクラスと同等の実力を持つ魔法戦士がいることを忘れるな。だからお前はGFP学院に在籍している学生に勝てないんだ』

 モールはゆっくり体を起こし、『ま、殺したら反則だからここまでにしておくよ』とドナデュウの様子を冷静に見つめながら立ち上がった。


 5秒経った後、試合終了の合図のベルが2回鳴り、ドナデュウは優勝を果たせずに終わった。



「大会で決勝まで勝ち進んだからにはドナデュウって人は強かったのかもしれないけど、傲慢な性格だったんだ」

 雅稀はふぅとため息をつく。


「僕はああいう人は好きじゃないけど、すごい戦いだった……」

 試合の余韻に浸っている一翔の隣で利哉は「ほんと! いつかオレたちもこんな感じで戦えるようになることを思ったら、今後が楽しみだよ!」と跳躍する。


「それはそうだけど、この戦いとフォール=グリフィンとどう関係してるんかな?」

 雅稀は目の前の手すりにもたれかけると、時空移動水晶ヘリクラン・クリスタルの導きで3人は勝手に宙に浮き、周りの景色が回転するように変わり始めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る