01-06 全知全能(インフィニティ)属性の存在

 雅稀たちは南西の学生寮を囲む林を抜けて200メートル先の図書館へ向かった。

 日が沈みかかって星空が見えはじめている。


 昼間は大聖堂を思わせる美しさを放っているのだろうが、初めて行く彼らにとっては魔女の館にしか見えない。

 窓から漏れる光のせいで、怪しい建物と錯覚してしまっている。


 木でできた扉を引くと、中央に赤色のカーペットが敷かれており、両脇にグリフォンの巨大な羽根と足の表皮がショーケースの中に展示されている。

 雅稀らの世界では、標本をホルマリンに浸けて展示されるのを時々見かけるが、魔術の力なのか、コーティングされている様子がないのに迫力を感じさせる。


 そのままカーペットが敷かれている方向へ進むと、出入り口のゲートがあった。

 自動でゲートが開くと、階段に繋がっていた。


 雅稀たちは無言でらせん階段を上ると、2階には多くの本が敷き詰められた本棚が手前から奥までそびえ立っている。

 本棚の端に置かれている本のジャンルを書かれているのは何となくわかるが、見たことのない文字で表記されている故、彼らはわからずに立ち止まる。


「魔術師は魔術語という言語を使用しているんだ。両親の話によると、英語と語順が同じらしいよ」


 一翔は本棚へ向けて両手を軽く広げて肘を伸ばし、「と言っても、僕も魔術語は少ししか読めないから」と無表情で魔術に集中する。


 一翔の手から淡い水色の光が同心円状に広がり、本棚全体を覆う。


 さっきまで魔術語で書かれていた文字が馴染みのある日本語へと置き換わっていった。


「すげぇ……! これなら読める……!」

 雅稀は驚異で大きな声が出なかった。


「おそらく、大学の歴史書を見れば僕らの知りたい謎について書かれていると思う。けれども、他の分野にも手掛かりがあるかもしれない。だから、気になる本があったら調べてほしい」

 一翔は首を左右に振って両隣に立っている雅稀と利哉の視線を合わせる。


 わかったと返事して、3人は本棚の奥へと散っていった。



 大学の歴史書に知りたいことが全部書かれている、そんなうまい話があれば良いけどなあと雅稀はそう思いながら、ちらちら視線を変えながら背表紙を流し読みする。


 ん? と彼は目を細め、群青色のハードカバーの本を取り出した。


『偉大なる戦闘魔術集』がタイトルとなっている500ページ程からなる本をペラペラめくる。


 その本には当然ながらGFP学院の歴史は書かれていないが、例えば「深海大渦ダイブスクリュー」という呪文を唱えると、剣身ボディから藍色の巨大な渦潮が相手を飲み込み、気絶させるという水属性の物理系攻撃魔術がモノクロのイラスト付きで書かれている。


 もちろん、他の属性についても、過去に生み出された強力で恐ろしい攻撃魔術についても記載されている。


 他に、「根源呪縛オリジン=ゼロ」を唱えて切先ポイントを相手に振りかざすと、体が麻痺して動けなくなり、相手の攻撃から防御する闇属性の砲弾系と波動系が合わさった防御魔術についても書かれている。

 この技は攻撃魔術としても使用されるが、相手の命に関わり得ることから、禁断の技とも言われている。


 攻撃魔術に限らず、防御魔術についても数多く書かれているが、悪用すると人の命を落としかねない。そう考えると鳥肌が立つ。


 ふぅと息を漏らして最後のページを開いた瞬間、目を疑った。

 そこには『全知全能インフィニティ属性』という聞いたことのない属性が視界に入った。


「想像したことが何でも現実世界ベスマールに現すことができる……」


 その文字を見てますます興味を持って続きを読むと、こんなことが書かれていた。


「一瞬にして想像した物体が現れたり、宇宙を形成したりするなど、6種類の属性を自由自在に操れる魔術界ヴァール最強の属性だが、およそ500年に1人しかその属性を身につけられないと言い伝えられている。それだけ偉大な魔術師しか体得できない」


 雅稀は1ページめくり、

「また、全知全能インフィニティ属性を体得した人の特徴として、その属性の魔術をしているときに虹彩が赤く光る」

 と呟きながら読んだ。


 日光など、光を浴びた日の夜に光り続ける緑の目とはまた違うのだろう。


 それはさておき、この全知全能インフィニティ属性を持った魔術師が、この大学生全員にGFPを組み込んだのではないかと雅稀は思った。


「他の本を当たってみるか」

 手に取っていた本を元の場所に戻し、再び本を探し始めた。

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