00-03 もう1つのGFP

 寝室のベッドの上で寝ていた雅稀は目を覚ました。

 スマートフォンで時間を確認すると午前1時だった。

 日本から想像を絶する程離れており、当然電波が届かないため、学生寮に着いてから手動でスマートフォンの時刻を設定していたのだ。


「こういう時に限って、変な時間に目を覚ますんだよなー」

 雅稀は小言を呟いてスマートフォンの電源を切った。


 すると、画面からどこかから発する緑色の光が反射している。

 辺りを見渡しても光っているのは足元にある黄色のランプのみ。


 彼は音を立てないように注意を払いながらアクアブルーのカーテンを開けると、窓から見える景色は漆黒に染まった森林と白く輝く無数の星のみ。


 もしかして……と雅稀は部屋の入口付近にある大理石でできた洗面台に向かった。


 この時点で嫌な予感がして体は震えていた。

 恐る恐る鏡に顔を映し出す。


 そこには――両目から鮮やかな緑色の光を放つ雅稀が映っていた。


「あああああああーーーーーーーーーーーーーーっ!」

 今置かれている状況を受け入れられず、その場で叫んでしまった。


「……どうしたんだ、この時間に……」

 声が大きかったせいか、利哉が目を擦りながらリビングから顔を出す。


「お……お前の目も……光ってる……」

「何言ってんだよ――えっ!?」

 利哉は雅稀の目を見て言葉を失った。


 訳がわからないまま鏡の前に立つと、雅稀の言った通り、利哉の目は彼と同じ鮮やかな緑色の光がぼんやりと放っている。


「ちょっとそんなことある?」

 利哉は頭を抱えながら寝室に戻った。


 さっきまで寝ていた一翔も起き上がっているが、やはり彼の目も緑色に光っている。


「これってどういうこと?」

 寝室に置かれた、1番奥のベッドの上に腰掛けた雅稀は2人のいる方向に顔を向ける。


「これは、ひょっとしてGFP学院大学のGFPはグリフォンパーツの略だけではないのか!」

 一翔ははっとした顔をして言葉を続けた。


「GFPは僕らの世界で研究によく用いられている緑色蛍光タンパク質を意味しているのかもしれない……!」


「りょくしょくけいこうたんぱくしつ?」

 雅稀と利哉は口を揃える。2人とも訝しげな面をしている。


「英語ではGreen Fluorescent Proteinと言って、その頭文字をとってGFP。元々オワンクラゲが持っているタンパク質で西暦1962年に下村しもむらおさむ博士らによって見つかり、2008年にノーベル化学賞を受賞した。GFPは波長395ナノメートルの紫色の光を吸収して活性化状態になり、元の状態に戻る時に509ナノメートルの緑色の蛍光を発する。だからGFPは緑色に光るんだ」


「言ってることは難しくてよくわかんないけど、一翔は本当に何でも知ってるなあ。でも、何でこんなことに……」

 雅稀は掛け布団をぎゅっと握りしめる。


「わからない……多分誰かが魔術で虹彩の色を決める遺伝子にgfp遺伝子を組み込んだに違いないと思う!」

 一翔は真剣な目つきで雅稀と利哉のいる方向を向いて

「頼みがある。時間のある時で良いから、図書館で調べ物をしたいんだ。協力してくれないか?」

 と両手を合わせる。


「良いよ! だってルームメイトだぜ!」利哉は胸の前に右手の握り拳を構え、「俺も気になるから協力する!」と雅稀も賛同した。


「ありがとう! 今は遅いから、とりあえず入学式に備えよう」

 一翔の言葉に雅稀と利哉は頷いて再び眠りについた。

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