00-02 2人のルームメイト
入口に着くと、薄手の黒いコートを着た人たちが十数人いて、忙しそうに仕事をしている。
よく見ると、コートの襟元や袖口の色が橙色の人もいれば紫色の人もいるが、何を意味するのだろうか。
その内の1人、袖口が緑色で青髪の男性の前に立つと「名前をファミリーネームから教えてください」と言われ、「新條雅稀です」と答えた。
彼は数多くの氏名が並んだリストから探し出し、ボックスにチェックを入れる。
右手の人差し指を軽く立てて振ると、目の前に鍵が現れた。
「君の部屋はこの建物の3階、369号室です。そこにバスで預かった荷物があります」
ありがとうございますと鍵を受け取って少し奥に進むと、らせん階段がある。
らせん階段は円柱型の学生寮の中心部に設置されており、顔を上げれば最上階の9階まで筒抜けになっているのが目視でわかるくらい、大きくくり抜かれている。
寮の天井は青を背景に羽を大きく広げる金色のグリフォン、すなわちGFP学院のシンボルが描かれている。グリフォンの迫力は1階にいる人まで感じさせる程、黒色の目が光っている。
当然、上の階へ行く程小さく見えるが、各部屋の扉や壁に彩られた青系統のバラや桔梗、ツツジなどの様々な花が優雅な寮であることを演出している。
各階の階段から一歩外へ出ると、らせん階段に沿うように廊下が設置されている。その外側に部屋の扉があり、扉の間隔から部屋の広さは50平方メートルはあるだろう。
雅稀は濃い青色のカーペットが敷かれたらせん階段に足を踏み入れ、割り当てられた部屋がある3階に着くと、既に息が上がりそうになった。
もし、与えられた部屋が9階だったら、部屋に辿り着くまでひと苦労だ。そう思うと、下の方の階に部屋が与えられてラッキーだった。
369号室に着いて鍵を挿した。普段ならそのあとに時計回りに回して開けるが、挿しただけで勝手に部屋のドアが開いた。
鍵を抜いて部屋に上がると、青色のバラなどの花模様が描かれている美しいカーペットの上に、1人用の白いソファーが3つ並べられた広いリビングが視界に入る。
リビングに置かれた3つのソファーの中心にガラス張りの四角いテーブルが置かれており、窓際付近に目をやると、雅稀の荷物を含めて3つ並べられていた。
「確か、このキャリーバッグは俺のだけど、あと2人ここに来るってことなのか?」
雅稀は部屋を見渡すと、リビングのソファーは3つ、入口から見てリビングの右側にある寝室のベッドも3つある。
そして、今いる部屋のハンガーに吊している襟元と袖口が白色で、くるぶしまである丈の長い黒い薄手のコートとワイシャツ、黒地のテーパードパンツも3着ある。コートの左胸に金色のグリフォンの刺繍が施されていることから、おそらくGFP学院の制服だ。
きっと、3人で寮生活を共にするんだなと思い、入口に顔を向けると男子2人が立っていた。
「もしかして、369号室に案内された方ですか?」雅稀が咄嗟に向かうと「そうだよ。オレも明日から大学1年になるんだぜ。よろしく」と鮮やかな赤に染まった、ツーブロックかつベリーショート髪型の男子が気さくに返事をする。
「本当か!」
「ああ。オレは
続いてもう1人。ミディアムのエアリーヘアの毛先が暗い紫色の男子が一歩前に踏み出して
「僕は
と冷静な声を発した。
「俺は新條雅稀。よろしく!」
カーペットの上に置いている荷物を寝室に移動させてひと段落すると、3人はリビングのソファーに1人ずつ腰掛けた。
「2人はどこで知り合ったんだ?」雅稀の問いに「いや、ここの寮の受付でたまたまカズが隣にいたんだ。だから初対面だぜ」と利哉はちらりと一翔に目を向ける。
「しかも、部屋に向かう前に一緒に喋ってたんだけど、魔術師一家なんだって!」
利哉は目を輝かせて雅稀の顔を見る。
「え? そうなの? すげーなぁ!」
雅稀は興奮し、「じゃあ、このコートの袖口って白だけどさ、どういう意味か知っているのだとか?」と質問した。
「僕の父さんによると、魔術師には階級というものが存在するらしいんだ。自分の階級によって袖口の色が変わるんだって」
「へぇ、色々知ってるんだな」
雅稀はバスで見たものとほぼ同じコートを手に取って胸に当てる。
唯一違いがあるとすれば、グリフォンの背景の五角形が青色に刺繍されていることだ。
五角形の色は案内された学生寮と同じ青系統で、その色は魔法戦士学科の学生であることを指し、『冷静に状況判断できる魔法戦士であれ』という意味が込められている。
「ちなみに、上に羽織る衣装は魔術師を意味するローブ。ここは魔術師が暮らす
「え? ヴァール?」
雅稀と利哉は怪訝そうな顔をする。
「そう。僕らがふるさととしている地球があるのは魔術師がいない世界、魔術語で
一翔の説明を聞いて、雅稀はバスに乗車してから学生寮に到着するまでの30分間に見た光景が何だったのか、瞬時に理解した。
地球は薄緑色の球に囲まれた
「そういうことだったのか! でも、青や緑だけでなく赤や黄色の球もあったけど、あれは……」
「いや、僕が知っているのはその2つだけ。ここに来る時に僕も見たけど、わからない……」
「そうか……」
雅稀は視線を落とす。
大学生になる前日から宇宙の謎に遭遇するとは想像もしていなかった。
「あれはオレも不思議に思ったけど、明日の入学式以降にわかるんじゃないか?」
「そうだな」
利哉の言葉に雅稀は力強く返事をした。
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