忌まわしい
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仕事が順調に終わり早く家に帰れた。ついこないだから、彼が結婚してしまったらどうしようという焦りで何度かSNSから彼にDMを送ろうかと思ったけどやめておいた。そんなことより偶然を装って会いたい。ただ、彼は会社員をしていないみたいで、フリーライターをしながらアルバイトをしていると聞いた。不安定な仕事だからって確か言っていたな。だから、偶然を装うにもいつどこで何をしているのか詳しくわからないのが難点だった。
私が、彼と出会ったのは高校の友達から誘われた合コンだ。あまりこういった集まりには誘われたことがないから、なんとなく興味が湧き参加したのがきっかけだった。「久しぶり、のぞみって今彼氏いる?いないなら合コンに参加してくれない?あ、さやかも来るよ!覚えてる?
参加した合コンで私は前の席に座った彼に一目惚れをしてしまった。歳は4つ上で、無造作な黒髪で年齢より若く見えるのは少しやんちゃな雰囲気がそうさせているのだろう。ゆったりしたニットにデニムでシンプルな服装にも好感を持てた。あまり、関わってきたことのないタイプの男性を前にして私は完全に浮かれてしまっていた。
そして、見るからに私は数合わせの要員。周りの女の子たちは、今日の為に張り切ってきたのであろう、しっかり巻かれた髪に仕事おわりの割には全くヨレていないメイク。あぁ、やっぱりみんな同じ雰囲気だ。隣に座っている富士さんだって可愛いと噂されていてもみんなと同じようにしか見えない。個性ってものを一切感じない。
これは、もしかしたら私の一人勝ちじゃないの?だって、私はみんなとは違う。この中では地味な方になるけど、他の子より区別がつく。そんなことを考えながら、適当な自己紹介をして、周りの子がカクテルを飲む中、私は苦手だけどビールを飲んだ。「田中さん、いい飲みっぷりだね。お酒好きなの?」そう話しかけてきてくれた目の前の彼は感じのいい笑顔だった。これは、脈ありじゃないか。なんて、思ったものの話下手な私は、うまく話すことができずにそのまま連絡先すら入手できずにお開きになった。
そして、たまたま富士さんとSNSで繋がりあの彼と交際していることを知ってしまったのだ。富士さんのSNSのフォロワーには由貴もいた。
携帯を握りしてめて、彼とどう接触をするか考えていたら着信がなった。相手は、由貴。ついこの前会ったばかりの由貴が一体なんの用?また、惚気でも聞かされるの?なんて思いながら、渋々電話を取る。
「はい」少し、息が上がっているのか切羽詰まったような声で「ねぇ、のぞみ・・・この前話してたあの話って本当の話じゃないよね?」なんのことだろう。
「え?なんのこと?」「ほら、あの夢の話・・・」あぁ、あんな話まだ覚えていたの。でも、今更何を言い出すんだろう。
「それがどうしたの?」
「あ、いや、んーなんていうか。忘れられなくて」
煮え切らない返答に私も少し戸惑う。
嘘だよって言ってあげたい気持ちもあるけど、言いたくない気持ちもある。
「んー、私もわかんないけど。そんな話まだ怖がってたの?忘れなよ」
「そうだよね、ごめん。仕事で疲れてて変な夢を見ちゃっただけかも、ごめんね」
そう言って由紀は電話を切った。少し意地悪し過ぎたかも、なんて思いながら私はまた彼に会う口実を探していた。
そしたら、思いがけない出来事で彼と会うことが出来た。
それは、由貴の訃報だった。
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