6
急いで会社に来たものだから、まだ乾さんは出社してなかった。「あら、東さん今日は早いわね」なんて別部署の課長に言われたほどだ。時計を見るといつもより30分も早く来てしまっていた。(私、追い込まれすぎだろ)なんて思いながら席につきパソコンの電源を入れる。今日に限って、乾さんは始業時間ギリギリにやってきた。「おはようございます〜!セーフ!ほんと、危なかったぁ」なんて言いながら、相変わらず緩い後輩。もしかして、夢を見たのが原因で寝坊をした?聞きたいけど、乾さんはそのまま午前中は会議があるみたいで、バタバタと急いで会議室に入って行ってしまった。モヤモヤする気持ちで午前中の仕事に集中するためにミントガムを口に入れ、気持ちを切り替えた。
「お疲れ様!乾さん、朝どうしたの?」やっとこの時間が来た。買ってきたお弁当を広げながら私は隣でパンを食べている乾さんに話しかける。
「忙しなくてすみませんでしたぁ。いや、普通に昨日コンパに行っててそのまま飲み過ぎちゃった、みたいなぁ」と水を一気に飲みをしている。なるほど2Lの水が机にあるのはそういう訳か。一気に期待していたシナリオが崩された。「熟睡しちゃってたのね?」「はい!めっちゃ寝ました。念の為にアラーム多めに設定しといて助かりましたよぉ」と言いながらパンを頬張っている。
この様子だと昨日私が話した夢のことなんて忘れているに違いない、夢すら見てないんだろう。なら、望が言っていた、人に話せば大丈夫と言う説は立証されなくなる。
じゃぁ、私が今体験してるのは何?このままだと私は明日、死ぬ?
急いで携帯を取り出し、望に電話をと思ったが今は平日の昼間。電話がつながったとしてもゆっくり話をしているほどの時間はないだろう。だからと言ってメッセージアプリで文章を打とうにも何をどう打てばいいのかわからない。
「東さん、東さん!お昼終わっちゃいますよ、早くお弁当食べた方が・・・」「あ、ごめん。本当だ」「昨日からどうしちゃったんですか?私、お化粧直ししてきますね」そう言って、乾さんは食べ終えたパンのゴミを片付けて急足で化粧室へ行ってしまった。昼休憩が終わるまでもうあと20分ほどしかない、お弁当に手をつけようにも食欲がわかず、今日の夕食に持って帰ることにした。
定時後特に予定もないけど、急いで会社を出た。望に電話を掛けるためにずっと携帯を握りしめていたことに気づいたのは、家の鍵を開ける時だった。何をこんなに焦ってんだか、いい大人が恥ずかしいと思いつつ部屋着に着替え、19時を回った頃、ようやく望に電話をかけたプルルルと無機質な音を聞きながら、どう話を振ればいいのか考えていた。「久しぶり」というには早すぎる。望に電話をかけるなんて、もう何年もしていない。考えがまとまってない時に「はい」と望が電話に出た。
_______「ねぇ、のぞみ・・・この前話してたあの話って本当の話じゃないよね?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます