目が覚めたら、汗で顔に髪が張り付いていた。時計を見るとまだ朝の6時でアラームが鳴る前に目が覚めてしまった。週の始まりの月曜日。休日しっかり休んで寝たはずだけど体が重い。

 ________あの夢のせいだ。

  少し早いけど、会社に行く準備を始めるか。

(この夢の話、馬鹿らしいけど確か誰かに言えば死なないんだよね?)そんなことを考えながらメイクを施し、オフィスカジュアルに着替える。時間に余裕があるから、コーヒーを淹れて久しぶりに食パンを焼いた。ニュースを見ながら朝ごはんを食べてると、こんな呪いみたいなことがあってたまるかと言う気持ちになってくる。馬鹿らしい。馬鹿らしいけど、気になる。気がつくと家を出る時間になっていたから、急いでコーヒーを飲み干し家を出た。


「おはようございます」そう言って私の席の隣に着くのは、一つ年下の後輩であるいぬいありさ。「あれ?東さん寝不足ですかー?顔疲れてません?さては、昨日飲みすぎたとか!私は今日も絶賛寝不足です。」元気な乾さんを見ていると自分の悩みが余計に馬鹿馬鹿しく感じてきた。

「いやぁ、ちょっとね。怖い話を聞いて」「怖い話で、寝不足って東さん。そんな可愛い一面あるんですね!」なんてあっけらかんに笑って、仕事のメールチェックを始めた。いいな、こう言う性格だと生きるの楽だろうな、なんて思いながら仕事を開始した。


「で?どんな怖い話を聞いたんですか?」

 昼休み、私にホットコーヒーを淹れて持ってきてくれた乾さんは興味津々に聞いてくる。「あぁ、なんかね」そう言って、望から聞いた通りに伝えるけど、怖がりすぎてその夢を見たことは流石に恥ずかしいから伏せといた。

「昔、そういうの流行りましたよね!ほら、なんだっけ....あ、チェーンメールだ!私いつもその手のメール止めてたから、回らないじゃん!と友達によく怒られてたなぁ。あ、新作のお菓子買ってきましたよ。食べます?」

 またもや、あっけらかんに私の悩みを蹴飛ばされた。これでいい。私は、望に言われた通り他の人に話をした。ありえないけど、もし万が一この呪いがあるなら悪いけど乾さんに移ったはずだ。これでいい。もう。何も怖くない。

「ありがとう〜!そのお菓子気になってた!」

 すっきりして昼休みを終えて仕事に戻った。


 月曜日は何かと仕事が忙しく疲れ切っていて自炊は流石にしんどいからスーパーで惣菜を買った。明日もきっと忙しいから、今日はしっかり眠りたい。そのために、普段は休日にしか飲まないアルコールも買っておいた。

 家に帰り、さっさとお風呂を済ませてバラエティ番組を流しながら買ってきた惣菜とビールをプシュッと開け、至福のひとときを過ごす。月曜日からビールを飲むのもなかなかいいな、これならしっかり眠れそう。二缶目を飲み終えて時間を確認すると、23時を回っていた。ほろ酔いで歯を磨き、ベッドに潜った。

 今日はテレビを消すか迷ったけどやっぱりまだ怖い。1時間後に消えるようにタイマーをセッティングして、少しSNSを確認すると、望が更新しているのが目に入った。空の写真をあげている。

「相変わらず、つまんない投稿」なんて、思いながらまた夢の話を思い出してしまった。

 ダメダメ、せっかくお酒を飲んでいい気分なのに。

 携帯を置き、ぼーっとテレビを見ているといい具合に眠気が襲ってきてそのまま目を閉じた。


 _________「ミシ、ミシ....」


 誰かが歩いているような足音で目が覚めた。携帯を見ると深夜1時を過ぎた頃。その時にはもうテレビもタイマーが切れていて、シンと静まり返った自分の部屋。変な時間に目が覚めてしまった。

「ミシ、ミシ...」

 人が歩いているような足音がわずかに聞こえる。嫌な考えが何回も頭をよぎった。

 でも、この2時間くらいは夢を見ずにぐっすり眠れた。そして、乾さんにも話を伝えた、だから、彼女が感染されたはず。もう何も怖いものなんてないのに。


 そう思った時、身体が全く動かなくなってしまった。







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