久しぶりにのぞみと会った。

 カフェで待ち合わせをして、近況報告。

 どうやら、望は叶わない恋をしているらしい。やめたらいいのに、彼女がいる相手を好きになるなんてまぁよく聞く話だけど、正直望はあの子には叶わないと思う。

 望の好きな相手の彼女は、私も知っている富士ふじさやかちゃん。高校まで私たちと同じ学校だった可愛い子。望は正直、垢抜けれていない。今日だって、Tシャツにパーカーを羽織ってちょっとそこのコンビニまでと言うようなファッションだ。メイクもしているのかしていないのかよくわからない。よく見ると、きっとメイクはしてるんだろうなと言う程度。私たち24歳だよ。もう少し周りを見て自分に気を遣いなよって言いたいけど、大きなお世話だろう。

 見慣れた望に安堵しつつも、心の中では少し悪態をついてしまった。


 「でね、彼がさ〜」望が前向きに今の叶わぬ恋から抜け出し、今の自分に合う相応な男を好きになれるよう私は彼氏の惚気話をした。

 きっと、このような話を聞いたらこんな恋なんてやめて私も新しい恋を見つけようと思ってくれるはず。そうだといいな。じゃないと、時間の無駄だよ。お節介は焼きたく無いけど、少しばかり応援の意味も込め惚気話を進める。


 「ねぇ、ちょっと聞いた話をしていい?」

 望はそうやって話を割り込んできた。

「うん?どうしたの?」「あぁ、大したことじゃ無いんだけどちょっと思い出しちゃって」あのね、と望が切り出した話は私の苦手なタイプの怖い話だった。


 夢の中、夕暮れの公園で哀ちゃんという女の子と出会うんだけど、まあ別に何かしてくるとかは無いんだけど....”哀ちゃんっていうの、あなたは?゛とだけ聞いてくるんだって。

 これを聞いた人は、その日に哀ちゃんの夢を見て三日後死ぬんだって。

 そう言って、望は笑っていた。

「あ、でもこの話を三日以内に誰かに話せば哀ちゃんはそっち行ってくれるみたいだよ」と。

 こう言う話が苦手なのわかってて話してきたの?

 それとも、私のしつこい惚気話に嫌気がさしたイジワル?

 望はたまにこう言うところがある。

 昔から人との付き合い方が下手なのは今も変わってないみたい。

 慣れてたはずなのに、大人になった今でもそんなことをしている事が少し怖かった。


 ただの作り話だろう。だって夢に出てきて殺されるって有名なホラー映画と同じじゃないか。私は、聞いた話を忘れるかのように周りの友達から聞いたネタを披露する。「あの子たち、すぐに離婚したらしいよ」「あの子は、いまだに不倫を続けてるんだって」「いい会社に内定もらったくせに、今はニートらしいよ」結局、こう言う話で盛り上がってしまう。そのまま、夕方までしっかりおしゃべりをして解散をした。


 これからも望と会うのは頻繁じゃなくてもいいかな。友達だけど少し合わない。言いたくないけど、一緒に歩いていても映えない子。私は流行には一応敏感で、メイクも服装にも気をつけてるから余計に少し恥ずかしい。

 そんなこと、絶対言えないけどね。


 夜、寝る前に望の話を思い出してしまった。

 あんな子供騙しのような話、忘れよう。忘れよう。忘れよう。忘れよう。そう思えば思うほど、事細かく思い出してしまう。「夕暮れの公園で....」いやいや、私は頭を振って無理やり別のことを考える。

 考えても、考えても、思い出すのは夢の話。

 もう!なんてことしてくれるのよ、あの根暗!


 暗闇で寝るのは怖いから、今日はテレビのタイマーをして寝よう。電気を消して、テレビを流しながら無理やり目を閉じる。

 一人暮らしをしてもう長いけど、こんなに怖い夜は初めてだ。







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