6 七つ目の属性
「まずは、検査のご協力有難うございました。突然の事にお疲れかと思われますので、どうぞおかけになってください。順を追って説明致しましょう」
近くの椅子にそう言って腰掛けるように促され、従う。
カイが思うよりも、連続の慣れないスキル発動に、体は疲れている様子だった。
腰かけたカイの前に立ったハメルが、いつもの穏やかな様子で続ける。
「まず、カイ様にはこの度、二種類の属性の適性が認められました。一つは“聖魔法”です」
「聖魔法……? ちょっと待ってください、聖魔法なら、最初の適性検査でも調べた筈じゃなかったんですか?」
「カイ様がお持ちの聖魔法は、私たちが得意とする聖魔法とは、少し“性質が異なる”のです」
ハメルの告げた『性質が異なる』とは、いったいどう言う意味なのだろう。
それを、彼は今から説明してくれるらしい。
「――まずは、我々が前回行った適性検査について、改めてご説明いたしましょう。我々が以前調べさせていただいたものは、主に6つの属性のうち、どの属性を所持しているのかを調べるものでした」
この世界には、『聖』、『闇』、『火』、『水』、『土』、『時間』の6つの属性が存在し、一般的に多く扱われる魔法が、“火”と“水”と“土”と“聖”魔法の四種類だった。
闇魔法と時間魔法が扱える者は、この世界ではごく僅かだと、以前説明を受けたことがある。だからカイは、古びた書物を見せられた時に、それが古くから存在するものだと信じたのだ。
指を一つ一つ丁寧に折り曲げて説明するハメルに、カイは真剣に耳を傾けた。
「カイ様も既にご存じの通り、その時の検査で、貴方様はどの属性も持ち合わせていなかった……ですが、我々はその時、七つ目の属性について、最初から除外する形で検査を行っていたのです」
「……え? それは、何故ですか?」
「何故なら、七つ目の属性は本来“誰にも使えない”もののはずだからです」
「……誰にも使えない……?」
「えぇ、その通りにございます」
なら、何故それは存在するのだろう。そもそも、以前受けた説明で、七つ目の属性が存在することを、誰も教えてくれなかったのは何故なのかと疑問に思う。
カイが怪訝な様子を見せるも、ハメルは変わらずに説明を続けた。
「この世界において、七つ目の属性……即ち、風魔法を扱えるのは守護天使セリカ様のみだからです。もしもその力を扱う事ができたのなら、それは“彼女から祝福を受けた”という事になるからです」
「っ!?」
風魔法と言われて、カイには心当たりがあった。
先ほどの検査の時に、カイの足元から舞い上がっていたあれは、紛れもない魔法によって現れた『風魔法』だったからだ。
カイが驚いた表情のまま固まる。無理もない。そんな事を突然言われて、誰がすんなり受け入れるだろうか。
(……だから、今更適性を調べたのか)
漸く、ハメルの行動の意味を理解した。
それがきっと顔にも出ていたのだろう、ハメルは何も語らずとも心の声に答えてくれる。
「なぜ我々が改めて貴方様の適性を調べたのか……それは、カイ様のご想像の通りになります……我々が最初から可能性として捨てていたセリカ様の祝福を、カイ様が賜っている可能性を考えたからです」
「でも、待ってください……そんな事を言われても……」
自分には、どうしたら良いのかが分からない。
本来自分は、聖騎士になるためにこの世界に召喚されたはずで、その聖騎士は既に決まっているのである。それが覆るなんて事、今更ある訳がない。
その説明の意図が未だに分からず、カイは途方に暮れる。だが、ハメルは柔らかな声のままではあるが、問答無用で説明を続けた。
「驚かれるのは無理もありません……ですが、カイ様には受け入れていただかなけらばならない事実なのです……そして、恐らく貴方様のそのお力は、ただの祝福だけではありません」
「……え?」
「先ほどお見せいただいた、光の鍵がその証拠となります」
「鍵が、何だって言うんですか? ただの、スキルで作られた鍵ですよ?」
「あの光の鍵は『原初の鍵』と呼ばれるものです。ありとあらゆる力からの解放を行うことが出来る“天使の力”にございます……恐らくカイ様が元々持たれている素質に合わせて、あのような顕現の仕方をしているのだと考えられます」
「天使の、力……?」
「その通りです」
あの光の鍵に、そんな秘密があったなんて想像もしなかった。ただの固有スキルだと思っていたからだ。
そしてハメルは確信へと導くように、ゆっくりと言葉をとなえた。
「私は先ほど、カイ様の聖魔法について“性質が異なる”と申し上げましたが、恐らく貴方様のそれは風魔法を元に生まれています。セリカ様の持つ風魔法には、浄化の力があると言われており、貴方様の力の源は全て風魔法によるものです。そしてその力を扱えるという事は、つまり――」
「……?」
これまで饒舌に口を動かしていたハメルが、一瞬だけ言いにくそうに言葉を詰まらせた。
カイのまっすぐな視線を受け、覚悟を決めた様子で唇を動かす。
「つまり、貴方様に与えられた祝福は“守護天使そのものの力”だということです」
「!?」
その言葉を前に、カイが言葉を失う。
しかし、状況をよく呑み込めないカイの気持ちを置き去りにして、ハメルは続けた。
「――そこで折り入ってカイ様にお願いがございます」
(……あぁ、嫌な予感がする)
慌ただしい日々が、ようやく落ち着きを取り戻そうとしていたはずなのに。
訪れた平穏は、いとも簡単に崩れ落ちていく。
「どうか、我らが王を、フィリオール様をお救いいただきたいのです」
それはまるで『己の役割を果たせ』と、ハメルの後ろに存在する天使に告げられたようだった。
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