5 光の鍵

 魔力適性の検査を受ける流れとなったカイの前には、今回の課題となる一冊の本が置かれていた。

 祭壇の上に静かに置かれたそれは、先ほど、ハメルが乗せたものだ。彼は邪魔にならないようにと、離れたところに立って様子を見守ってくれている。


 今回、カイの適性を検査するために必要な事は、本の鍵を解錠すること。どうやらそれは、特殊な闇魔法で封じられているようだった。


(――緊張する)


 周囲が静かすぎるせいで、自分の心臓の鼓動がやけに大きく感じる。

 そこに漂う空気は、庭園の時とはまた違う緊張感があった。

 そんなカイにとって唯一の救いだったことは、鍵開けのやり方が全て同じである、ということだろう。


(大丈夫、やれる)


 本の上に手をかざし、魔力を集束させていく。すると、カイの手のひらに向かって、光の粒子が集まり始めた。


「これは……!」


 その光景に少し離れた場所から見ていたハメルが、驚きの声を上げる。


 集中を続けるカイの黒い瞳が、繊細な魔力操作により細められれば、光はやがてあの時と同じように、ゆっくりと形を作っていく。

 そこに現れた光の鍵を、小さな鍵穴に差しめば、今が“合図だ”とばかりに言葉が脳裏を過る。


『「汝よ、開け!」』


 カチッ、と何かがかみ合った音に、カイの気が僅かばかり緩む。


(よし!)


 成功だろうか。庭園の時と同じ感触を受け、カイが鍵から手を離せば、異変はその直後起きた。


(なんだ!?)


 急に目を開けていられないほどの光が、本から溢れ出てきたのだ。

 失敗した結果による、魔力の暴走かと焦るカイだったが、近くから聞こえてきたハメルの言葉により、打ち消される。


「――あぁ、信じられません……まさか、貴方だったとは……!」


 その言葉はまるで、感極まっているようだった。


 一方のカイは、ハメルを見る余裕もなかった。

 視界を覆うほどの眩しい光に襲われたと思えば、次は足元から吹き上げる風により、視界を遮られることになったからだ。

 そもそもここは、四方の壁に覆われた建物の中だ。そんなこと、あり得るはずがない。

 それでいて、頬を撫でる風には、魔法特有の暖かさを感じた。


(次から次へと、何なんだよ!!)


 何とか状況を把握しようと、薄っすらと目を開けば、祭壇の上に置かれていた古びた書物が、砂のように消失していく光景が映る。それは、先ほどの書物が魔法により作られ、役目を果たしたという証拠だった。つまり、自分が先ほどハメルから受けた説明は、彼が自分を試すために吐いた嘘だったという事になる。


(そういう事か!)


 カイがようやく状況を把握すると、足元から吹き上げていた正体不明の風が、緩やかに勢いを弱めて消えていく。そうして、その場に残されたのは、ボサボサの髪型になったカイと、事の全容を全て把握しているであろう、ハメルだった。


「――説明、して貰えますか?」


 その言葉を口にしたカイの表情が、若干不機嫌そうなのは、きっと間違いではない。

 何の通達もなく、騙し討ちにあう形で力を試されたのだから。苛立っても仕方のないことだろう。

 一方のハメルは、よほどカイの“検査結果”が良かったようで上機嫌のまま頷いた。

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