2 これからのこと

 城の中でもひときわ静かで落ち着ける場所が、この緑あふれる庭園だった。

 緑豊かな場所として有名なこの王国は、セオレム大陸でも一番の大きさを誇り、そんな王城の庭園ともあれば、面積はかなりの広さを有している。だからだろうか、ここには植物や花の種類が見ているだけで数多く植えられているのが分かった。

 庭園の中央には、噴水もあって、鳥たちの水飲み場にもなっているらしい。

 そんな場所で世間話をする、ゆっくりと流れる時間が、カイは好きだった。


「そう言えば、何かやりたいことは見つかりましたか?」

「それが、全く」


 草むしりを手伝うこと暫く、世間話から突然そんな話題へと切り替わり、肩をすくめたカイが、少しだけ困ったように笑っていた。

 その質問はきっと、カイが今後の生き方について悩んでいるのを知っていての質問だったのだろう。

 花壇に生えている草を根っこから引き抜きながら、会話は続けられていく。


「なら、旅はいかがかな? この大陸には、我が国以外にもまだまだ多くの土地がありますし、旅は体力がある若いうちが良いですぞ」

「旅、ですか?」

「えぇ、文化も国により異なって、もしかしたらカイ様がお気に召す場所が見つかるやもしれません」

「なるほど」


 それは確かに、いい案かもしれない。

 この世界に来たときに受けた説明によると、行ったことのない国は他にも五つ残っているようだし、それぞれの国の関係も良好と聞いている。

 カイにとって旅というものを初めてこの世界で経験したが、なかなかに悪くないものだった事を思い出す。


 ジルドの意外な提案に、カイが反応を見せれば、人より少し経験豊富な先輩は続けた。


「カイ様は、何か得意なことはありますか?」

「得意なことですか? うーん……正直あまりこれと言って思いつくものが無くて……試験の結果はあれでしたし、人より優れているところもありませんし……しいて言うなら、固有スキルが一つあることくらいですかね」

「ほう、それは一体どのような?」

「解錠って言って、恐らく鍵開けのスキルだと思うんですけど、残念ながらそれを使えたことがまだ一度もなくて……」


 ジルドの質問に少し言いにくそうな様子を見せたカイだったが、素直にそう吐露する。

 当然相手はカイの事を馬鹿にしたり、笑ったりすることはなかったが、少しだけ興味を示したように目を丸くした。


「一度も?……それはこちらに来る前の事ですか?」

「そうなりますね」

「ふむ……なら、せっかくの機会ですし、ここで試してみるのはいかがかな?」

「え? ここで、ですか?」

「無論、カイ様の気が引けるなら無理にとは言いませぬが……幸い、ここは人気が少ないので、いい練習場だと思いますぞ」


 ジルドの言う通り、確かにここは静かだ。だが、まさかそんな提案をされるとは思わず、今度は違う意味でカイが目を丸くする番だった。


(確かに、この世界に来てまだあれを試したことは一度もない……でも、ジルドさんの前だからなぁ……まぁ、やってみる価値はあるか)


 前に居た世界ですらその実験は一人で行っていたのにと考えてみるが、この世界にきて驚かされる事ばかりを経験してきて、もしかしたら、と考えてしまう。

 少なからず、まだ結果が見えていない以上、可能性はゼロではないだろう。

 

 一瞬迷うように考えたカイだったが、すぐに気持ちが固まったようだった。


「分かりました、じゃあちょっとやってみます! あ、でも、開ける物を探しにいかないといけないですね……」

「それなら、ちょうど良いものがありますぞ、少しだけお時間を頂いても構いませぬか?」

「もちろん、構いませんよ」


 話がまとまると、開けたいものに心当たりがある様子で、ジルドがその場を離れてしまう。


(行っちゃった……取りに行かせて申し訳なかったな)


 その場に一人取り残されることになったカイは、遠のく背中を眺めてそう考える。

 だが、城内にはいくつか立ち入り禁止エリアがあったことを思い出し、素直にその場で待つことにする。せめてジルドが戻るまでに、手を洗っておくかと、立ち上がった彼は、眩しい空の光に目を細め、歩き出すのだった。


 それからしばらくしてすぐに、ジルドは何かを手に戻ってくるのだった。

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