第23話

交差点の近くのクリーニング屋。外から丸見えの白いカウンターの後ろには、上下のラックにワイシャツやらコートが大量に掛かっている。昔ながらのクリーニング屋といった感じで、レトロな値段表や洗いについてオススメされたポスターがそこらじゅうに貼ってある。レジも古い。

「今日はさ、海鮮丼行っちゃう?」とニカッと笑った福山さんがお昼ごはんの注文をするか聞いてきたので、もちろんとうなづいた。私は土日のほとんどを副業として、このクリーニング屋で過ごしていた。家賃は高いし遊ぶ金欲しさもあるが、年頃なので結婚式にお呼ばれするとすぐにすっからかんになってしまう。社会人になったし、自分の交友関係だから親にせびるわけにもいかない。そんな状況でも毎週末このクリーニング屋で福山さんと美味しいものを食べたり、愚痴を聞いてもらうのが私の楽しみだった。福山さんはそろそろ大学生になる息子さんがいて、男の子のお母さんというのがピッタリの元気のいい人だ。記憶力がよくて、お客さんのことも何でも覚えている。

メンバーは大学生もいれて6人。店長の星さん、大学生が男女一人ずつに、たまにくる奈良さんという悠々自適の60代の女性。彼女は私に自転車をくれた。働いていたときにもらったがベランダに出したまま使っていないというミニベロの自転車。彼女は私を可愛がってくれて、飼っているビーグルを見においでと家に誘われたりと何かと気にかけてくれていた。

-一人で店番をしていたある日、見たことのない男の人が店に入ってきた。いらっしゃいませと言いながら伝票を受け取って、同い年くらいかな?とチラチラ見た。伝票に書いてある名前になぜか惹かれた。ワイシャツを受け取ると彼はさっさと出て行った。寒そうに大きめのスヌードを顔にまで巻いているその姿に私は一目惚れしてしまった。

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